尖閣で戦火などあり得ない。軍事アナリストが見抜く中国の落とし所

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4月、菅総理とアメリカのバイデン大統領が日米首脳会談後の共同声明でおよそ半世紀ぶりに台湾に言及。以来「台湾有事」とともに「尖閣有事」に関する言説がメディアを賑わしていますが、専門家の目にはどう映っているのでしょうか。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、軍事アナリストの小川和久さんが、中国の立場で見た尖閣問題の落とし所を解説。軍事力に訴えるのではない、したたかな「三戦」戦略に対する備えの必要性を訴えています。

中国から見た尖閣問題の落とし所

マスコミが煽るものですから、台湾有事について、そして至近距離にある日本の尖閣諸島について心配される向きが増えているようです。そこで、今回は中国側の目で尖閣問題を眺めてみましょう。

むろん、本格的な軍事力を使っての尖閣奪取は、日本だけでなく、米国との正面衝突を招きますから、その選択肢は最初から除外するでしょう。海上民兵が漁船を使って上陸する、あるいは漂着するパターンも、日米が対応能力を高めている現状では、戦火を交えた挙げ句、撃退されるのは目に見えています。

戦火を交えることになれば、国際資本が中国から手を引くという天安門事件の二の舞です。それだけは絶対に避けなければなりません。しかし、1970年代に入って自国の領土だと主張し始めた中国としては、尖閣問題を放置すれば日本の主権を認めることになり、国家的な威信や国際的な発言力にも影響します。

そこで駆使しているのが三戦です。古代中国の戦略の書『孫子』や1999年に発表された『超限戦』と軌を一にする考え方で、輿論戦、法律戦、心理戦からなり、「砲煙の上がらない戦争」とも呼ばれています。使える手段はなんでも戦力化して、戦火を交えずに勝とうということです。その延長線上に、ロシアがクリミア併合で見せたハイブリッド戦があります。

尖閣諸島周辺で行動する海警局の船舶は、中国の主張を国の内外に発信する輿論戦、中国の国内法に則っていることを示す法律戦、日本などに影響を及ぼす心理戦を体現しているのです。

中国はおよそ次のような流れを考えていると思います。

  1. 様々な動きを見せることで緊張感を高める
  2. その中で、緊張緩和に向けた危機管理のメカニズムについての協議を提案する
  3. 海空での衝突防止を合意する
  4. 尖閣諸島周辺での政府と軍の艦船、航空機の行動を自粛することを合意する

艦船と航空機が活動しなくなれば、日米と衝突する可能性もなくなり、領海侵犯を通じて弱腰でないことを中国国内に示す必要もなくなります。東シナ海全域から紛争の火種を取り除くことにもつながります。これは中国側が望んできた尖閣問題の「事実上の棚上げ」で、名を捨てて実を取ることにほかなりません。

このように、尖閣諸島と同様に台湾有事についても、中国が手を出せないような日米台の連携を強化することが基本だと、ご理解いただけると思います。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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