誰しも一度は考える、自分にとっての「天職」。しかし一生を捧げる価値ありと思える仕事を見つけるのは、容易なことではありません。先を走る方々は、どのようにして天職と出会い今日まで努力を重ねてきたのでしょうか。今回のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』では著者でiU情報経営イノベーション専門職大学教授の久米信行さんが、年齢も分野も異なる2人の「達人」の半生を紹介しつつ、天職、そして成長について考察しています。
オトナの放課後相談室「他人から強いられる『成長』が苦手です」
さて、今週の質問。私も社長だったころに社員に強要していたのでは?と反省しながら、お答えさせていただきます。
Question
成長とのいい距離感とは?
他人から強いられる「成長」が苦手です。
社会人5年目のサラリーマンで、今いる会社の社長の口ぐせが「みんな、日々成長しているか?」なのですが、私はこのノリが嫌いです。
成長を求めること自体は、自分も必要なことだと思いますが、会社の社長から言われると「会社の役に立つ」という枕詞が含まれていそうで、何だか成長を強制されているような気になります。
もちろん社長もそんなつもりではないのかもしれませんが、頻繁に言われると「成長」って言葉が強制的な意味合いに感じてしまい、居心地が悪い思いをしています。
成長を目指せば、伸び悩むこともあるし、成長の自覚って後から振り返ってみてはじめて分かることあるので、自分には今の会社は合わないのかなぁと悩んでいます。
とはいえ、どこの会社も、似たり寄ったりなのかなと思うと、いっそYouTuberでも目指そうかなと思っているところです。
「成長」って言葉との、いい距離感を知りたいです。(東京都・27歳、男性)
久米さんからの回答
自ら天職を見つけて、会社のためだけでなく、世のため自分のためと合わせた三方良しの成長を志しましょう。
ちょうど、先週、iUと明治大学にゲスト講師としてお呼びした2人の達人(まったく違うジャンル)のお話の中に、ヒントがありそうなのでご紹介いたします。
おひとりめは、日本でトップランクのハッカーで、例のLINE個人情報漏洩事件の調査や、東京オリパラのシステム防衛アドバイスなどにも関わるスペシャリスト上野宣さん。
曰く「好きなこと」「できること」「稼げること」の、3つの円が交わるところが天職だと、学生たちに力説されました。
幼少期から、お父様の経営するパソコンショップ(その名もハッカー)で、遊ぶようにキーボードに触れてきた上野さんにとってセキュリティこそが天職だったそうです。
だから、今もセキュリティの勉強が楽しくて仕方ないそうで、世界中の展示会・研究会を巡っては新しいことを学んでいるとのこと。つまり天職が見つかれば、勝手に楽しく努力して、いつの間にか成長してしまうわけです。
また、自分では気づかない能力や、さらには新しい天職を、他人(特に年上の達人)と交流して見つけてもらうことも大切だとおっしゃいました。
上野さんは、ある日、ある先輩から「君は、むずかしいことをわかりやすく教えるのがうまい」と言われたそうです。どちらかと言えば、理系でコミュ障気味だと自分では思っていたそうですが、そこからセキュリティの解説書を書いたり、人財育成なども行うようになり、1人起業をして成功されます。今では、上司も部下もおらず、満員電車にも乗らなくてよく、天職を好きなようにまっとうできる経営者になられたのです。
同時に、頼まれる仕事はできる仕事と心得、セキュリティ人財を増やす資格制度などの公的な仕事から、地元のお祭りの手伝いまで引き受けて、等身大の社会貢献にも関わり、それさえも楽しみながら暮らされています。
私が特に感動したのは、上野さんの座右の銘です。
「120%の満足。予想は裏切るけれど、期待は裏切らないよ」
ヒトから言われなくても成長する、自分自身で勝手に「他人の予想や期待以上の仕事ができる人間になる」と決めているわけです。