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日経平均2万8000円割れは「FOMC後の空騒ぎ」だ。短期波乱を経て緩やかな株価上昇基調へ回帰=馬渕治好

21日の日経平均株価は953円安の急落となり、一時2万8000円の大台を割り込む場面もありました。FOMCの結果を受けて米金融緩和縮小が意識されたことが原因と報道されていますが、これについて「市場は騒ぎ過ぎ」だと指摘するのは、有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』著者でブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリストの馬渕氏です。本記事では、馬渕氏の中長期シナリオと足元のマーケット分析を特別に無料でご紹介します。

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2021年6月20日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。

中長期シナリオ結論(2021/5/30時点)

(※筆者注:毎号最後に掲載します。変える必要がないと考えている間は、まったく変えません)

<中期シナリオ~2021年末に向けて>

経済や企業収益の回復は、かなり明確になってきた。ただし、回復基調は、これから極めて緩やかだろう。したがって、だいぶ将来までの企業収益回復を織り込んでいる株価の高さと、実体経済の低空飛行の差が、高PERという形で表れている。だから株価が基調として下落に向かうかといえば、そうではなく、市場は、上の位置で実体経済・企業収益が追い付いてくるのを待つだろう(結果として、時間をかけてPERが低下する)。主要国の財政・金融政策も、景気と株価の下支えに働いている。

2021年を通じて、主要国の株価や外貨相場(対円)は、短期的な上下の振れを繰り返しながらも、諸データに示される緩やかな世界経済の回復を踏まえながら、基調としては、持ち合いに上昇の色合いがついたような、じわじわとした株高・外貨高傾向を続けるだろう。

ただし日米の株価動向を比較すると、米国では、企業収益予想値の上方修正が急速であることに比べ、株価の上昇速度は緩やかで、結果として予想PERが総じて低下傾向にある。すなわち、株価の上昇が企業収益の改善に比較して控えめであり、その分、株価のさらなる上昇余地がある。一方日本株は、最近の株価下落でようやく予想PERは低下したが、米国より低下に転じたタイミングは遅れた。つまり、日本企業の収益力の改善は米国企業に比べて冴えない。

このため、今後も日本株が米国株に劣後する(日米ともに株価が上昇するが、日本株の上昇率が米国株より小さい)ものと懸念される。

日経平均株価は、短期の底値形成を終えて、年末に3万1,000円手前まで戻るにとどまろう。今年2/16(火)にすでに付けた高値(終値で3万467.75円、ザラ場高値で3万714.52円)を今後上回るかどうかは、微妙な情勢だと判断する。ニューヨークダウ工業株指数は、年末までに3万5,000ドルを大きく超え、3万7,000ドル前後に達する可能性がありうる。

外国為替相場については、徐々に世界経済が明るさを増す中で、外貨高・円安基調を見込む。外貨の中では、投資家のリスク回避姿勢が薄らぐと期待されることから、これまで優位であった米ドルより、ユーロや豪ドルなど、非米ドル通貨の方が、対円での上昇力が高いと予想する。

<長期シナリオ~2022年>

米連銀は慎重な姿勢を崩しておらず、米国の景気や株価の回復にかかわらず、2021年内は金融緩和の縮小に動かないだろう。しかし2022年には、緩和の出口を出始めると見込む。

米マクロ経済が好調だからこそ緩和を縮小するわけであり、また縮小のペースは極めて遅いだろう。そのため、本来は、緩和縮小は大きな波乱要因にはならないはずだ。しかし、米国の企業や投資家、市場はあまりにも緩和に依存してきたため、金融政策の修正が大きな波乱を引き起こす恐れがある。

具体的には、以下の懸念が本格化すると考える。

1)脆弱な米国内産業・企業の破綻
2)米国における、社債の発行市場の好調さに依存した企業の資金調達の変調と、それが自社株買いの減退につながる恐れ
3)世界的に、低金利による運用難でリスクをとっていた投資家が、長短金利の上昇で一気に利回り物に資金を移動する可能性と、それを材料にした株式売りなどが嵩む展開
4)株式の信用取引や、ジャンク債(格付けの低い債券)、その他高リスク取引を拡大していた投資家の破綻
5)米ドルに依存してきた新興国の苦境(米ドル建て債務の借り換えの困難化、米ドル高・自国通貨安を防衛するための望まない利上げなど)

このため、日米等主要国の株価は、一時的であったとしても、大きく下落する局面があるだろう。日米の主要な株価指数は、2022年は、2021年の安値を大幅に割り込むと懸念する。

<超長期シナリオ~2023年以降>

極めて長期的には、世界的な景気拡大基調が続くだろう。それを支えるのは、新興諸国を中心とした人口増であり、技術革新、新商品・サービスの開発だろう。

2022年の波乱があれば、その試練をくぐり抜け生き残ることができた企業や投資家は、極めて強いものだろう。

10年単位で展望すれば、株式等リスク資産を保有すべきだと考える。

過ぎし花~先週(6/14~6/18)の世界経済・市場を振り返って

<FOMCを受けて、市場は想定外にリスク回避へと振れたが、騒ぎ過ぎと判断>

(まとめ)
前号のメールマガジンでは、FOMCの結果を受けても、市場は無風だろう、との予想を述べていました。実際には予想を完全に誤り、市場では株安・外貨安など、リスク回避的な様相が強まるといった、波乱の展開となりました。

ただ、それはFOMCの結果が波乱を引き起こしてしかるべし、といったことではなく、市場が騒ぎすぎていると判断します。

(詳細)
前号のメールマガジンでは、6/15(火)~6/16(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)については、大きな金融政策の変更はないだろうし、連銀も市場を刺激しないように配慮するので、市場が大きく揺れることにはならないだろう、との見通しを述べました。しかし実際には、当方の予想が完全に外れ、世界市場ではリスク回避的な投資家の行動(株安並びに米ドル高・円高と他通貨安)が進みました。

しかしFOMCの結果については、そのような市場波乱を引き起こして当然、というようなものではありません。むしろ、市場が騒ぎすぎている、と判断します。その背景をきちんと説明していると長くなりますので、後に回して恐縮ですが、「盛りの花」と「理解の種」で詳述します。

そこでそうした世界市場の動きを、いつものように、先週の騰落率ランキングで確認してみましょう。

まず、先週の主要な株価指数(原則、1か国1指数だが、日米については複数指数を採用)の騰落率ランキング(現地通貨ベース)で、騰落率ベスト10は以下の通りでした。

スリランカ
スイス
デンマーク
豪州
台湾
韓国
モロッコ
日経平均
カナダ
ニュージーランド

日経平均の上昇は、米国の株価指数のなかでは相対的にはナスダック総合指数が堅調であったため、日本でも値嵩ハイテク株(東京エレクトロンなど)に買いが入ったことによると推察します。
なお、後の「盛りの花」で述べるように、銅などの原材料価格が先週調整色を強めたことから、後述のように豪ドル、ニュージーランドドルは軟調でしたが、豪州とニュージーランドの株価は逆に堅調でした。

ちなみに、上記のベスト10だけが、先週は上昇しています。世界全体を眺めると株価が下落した国が多かったという状況でした。

一方、騰落率ワースト10は、以下となっています。

ペルー
ルクセンブルグ
トルコ
ニューヨークダウ工業株
南アフリカ
ノルウェー
オーストリア
ギリシャ
イタリア
S&P500

先週末に米国市場での株価下落が進み、ニューヨークダウ工業株(先週は3.45%下落)とS&P500(同1.91%下落)の下げが目立ちました。それに対してナスダック総合指数は週間で0.28%の下落にとどまり、明暗が分かれました(その点については、後の「理解の種」もご参照ください)。

外貨相場で、先週対円で上昇した通貨は、7つしかありませんでした。その7つは以下です。

ブラジルレアル
ミャンマーチャット
米ドル
アルジェリアディナール
スリランカルピー
アルゼンチンペソ
ベトナムドン

米ドルと日本円が多くの通貨に対して強いといった、リスク回避的な色合いが濃かったと言えます。

一方、外貨相場(対円)の先週の騰落率ワースト10は以下となっています。

ハンガリーフォリント
トルコリラ
ノルウェークローネ
南アランド
メキシコペソ
チリペソ
コロンビアペソ
スウェーデンクローナ
ポーランドズロチ
チェココルナ

リラ、ランドといった、代表的な新興諸国通貨で、下落率が大きくなったものが目立ちました。
なお、ワースト10には入っていませんが、豪ドルがワースト11位、ニュージーランドドルがワースト12位でした。

このほかの材料としては、日本で5月の貿易統計が6/16(水)に発表されました。輸出額は前年比で49.6%増と、かなりの増加をみせました。ただ、この前年比(2020年5月対比)で考察するやり方は、前年5月はコロナ禍で世界経済が不振を極め、日本からの輸出額が大きく落ち込んでいたため、前年比が自然と押し上がる部分があります。そこで、2年前比(2019年5月対比)でみると、直近5月の輸出額は当時より7.3%多くなっていますので、輸出動向については明るく見てよいでしょう。

また、直近の2021年3~5月分をみると、この3か月間は、米国向け、EU向け、中国向けの全ての輸出額がそれぞれ連続で前年比プラスを記録しており、特定国向けの輸出に頼っているような様相はだいぶ薄らいでいます。その点も、好材料だと言えましょう。

6/17(木)~6/18(金)には、日銀の金融政策決定会合が開催されました。金融機関が気候変動対応のための投融資を行なう場合にその原資を日銀が供給することや、コロナ禍対応の資金繰り支援策を半年間延長することが、決定されました。ただ、大きく金融政策を変更することは、事前の予想通り、ありませんでした。

Next: 短期的に波乱模様が残りうるが、早晩世界市場は落ち着き回復する

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