少子高齢化や人口流出による利用客の減少で廃線や第三セクターに運営を移行する鉄道も多い中、毎年数千万円の赤字を出しながらも走り続けている紀州鉄道。なぜ和歌山県を走るこの私鉄ローカル線は、倒産することなく営業してゆくことができるのでしょうか。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、紀州鉄道が持つ「役割」に注目し、経営会社が鉄道事業を潰さない理由を解説しています。
毎年赤字なのに、なぜ「紀州鉄道」は潰れないのか?
和歌山県御坊市を走る「紀州鉄道」。全長2.7キロの運行距離は、2002年に千葉県の芝山鉄道に抜かれるまで、日本一短いローカル私鉄として、知られていました。
この鉄道路線は、どのローカル線もがそうであるように、利用者が少なく、いつ廃止になってもおかしくない状況です。数千万円の赤字を何年も出し続けているのです。しかし、廃線の話は聞こえてこず、1日たった200人ほどの乗客で、今日も走り続けているのです。
なぜ、数千万円の赤字を出しながら、経営し続けることができるのでしょうか?それは、この紀州鉄道の“役割”に秘密があります。
当然、地域には利用者がいて、この鉄道が無くなると困る人もいます。その人たちのために運行していることは間違いありません。
しかし、地域の人たちのためとはいえ、毎年数千万円の赤字を出し続けることはできません。他に大きな理由があるからです。
この鉄道は約90年前の創業時から、苦しい経営が続き、途中、東京の会社に買収されて、存続することになったのです。しかし、当初から経営を軌道に乗せることは難しく、結局は赤字のまま、経営し続けているのです。
では、なぜ赤字のまま続けているのかという疑問が浮かびますが、この会社が紀州鉄道を買収した目的に、その理由があります。この会社の本業は不動産業で、別荘の売買、ホテル経営などを行っており、その延長線上に鉄道会社があったのです。
どういうことかと言うと、当時、阪急電鉄や東急電鉄などが不動産事業で成功していたため、「鉄道会社」の信用度が非常に高かったのです。その“信用”を得るために、紀州鉄道を傘下に収めたのです。本業の不動産事業を「鉄道会社の不動産部門」という位置づけにしたかったのです。
その目論みは見事成功し、信用ある不動産業者となっていったのです。数千万円の赤字は、広告宣伝費として捉えています。
IT時代の広告宣伝費として、数千万円は高額だと感じますが、“信用”は企業の根幹なので、決して高いとは言えません。しかし、信用づくりのために、儲けの見込めない企業を買収するのは、大きな賭けです。
この大英断は、黒字に転換できない点では負け。広告宣伝の効果があった点では勝ちです。
さて、この鉄道はいつまで走り続けることができるのでしょうか。
image by: Tennen-Gas, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で