単一競技で成功の「バブル方式」が、東京五輪では“無理ゲー”な訳

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「安心安全」をお題目のように掲げる東京五輪は、選手や大会関係者を隔離に近い状態で管理するいわゆる「バブル方式」で運営していく算段のようです。しかし、単一競技の大会では成功しても五輪のような多競技多地域にわたる大会のバブルなど、その名の通り弾けてしまう「無理ゲー」と語るのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。山崎さんは、わずか9人のウガンダ選手団ですら陽性者を確認しながら国内で新たに濃厚接触者を発生させてしまった事態を鑑みて、「安心安全」など「完全な絵空事」と厳しく断じています。

バブルのこと

少々修辞に過ぎた物言いかもしれないが、バブルとははじけるものである。そしてそれは大きくなればなるほどにはじけ易くなる。こちらは物の理である。

コロナ下で如何にしてスポーツイベントを安全に行うか。この一年間、世界中のスポーツ運営関係者が知恵を絞って何とか形にしたのがこのバブル方式というやり方なのである。簡単に説明すると、他国からやって来た競技者とその直接的(第一次的)関係者をバブル内に閉じ込めるようにして隔離し、入国から出国までバブル外の人とは直接接触しないようにする、というものである。これは飽くまで私見だが、単一の競技会においては割と成功率は高いような気がする。

しかしながらオリンピック東京大会においては33競技339種目である。競技関係者はオリンピックだけで5万人(競技者約1万1000人、関係者約4万1000人)を超える。仮にアスリートに限ったとしても1万1000人、33競技、339種目という複雑にして巨大なバブルとなる。しかもこのバブルはつくればいいというものではない。安全に移動させなければならない。バブル包装の巨大物流作戦など、まずもって無理ゲーである。

実際、考え得る最少レベルとも言える、高々9人というウガンダ選手団でさえバブル内に収めきることはできなかった。結果、当該選手団を受け入れたホストタウンの職員からも濃厚接触者として認定される人が出るという残念なことになってしまった。

そもそも空港検疫において選手団の1人が陽性と判明したにもかかわらず、残り8人の危険度評価すらしないまま滞在予定のホストタウンに文字通り先送りされ、そこでさらに1人の陽性者を出すなどあってはならないことであろう。

何より恐いのは、こういった事態が全く想定されていなかったということである。ただ現実問題として、防疫に従事する者がこういう場合を想定しない筈はないから、おそらく無視されていたのだろう。こう思えば猶恐ろしい。ついでに言うと、無視にしろ、想定外にしろ、こういった類の所謂不測の事態が起こった際に取り敢えず「STOP!」ではなく、何となく「GO!」というのが如何にも無責任ではないか。

本来、防疫計画というものには隙があってはならない。もしあればそういった弱点は事前に打ち消されていなければならない。そのためには、偉い人の立案した計画の粗を探し、けちをつける「嫌われ者」の存在が絶対に欠かせない。

日本人にはこれができないのである。偉い人に嫌われることを極端に避ける傾向があるからだ。基本的に偉い人の背後には官権の存在がある。故に偉い訳だが、この官権というやつが実に厄介で、完全な上意下達の権力構造を持つ。故に現場からの、言い換えれば下からの意見は無視され、問題として騒がれて初めて対策を取るという泥縄状態となる訳である。

我々は改めて、こう問わずにはいられない。「9人でできないものがどうして5万人でできるのか」。答えがないなら、政府や五輪関係者の言う「安心安全」など完全な絵空事である。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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