立花隆さんの訃報に触れ思い出す「知の巨人」と2度の“すれ違い”

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1974年に月刊『文藝春秋』に発表した「田中角栄研究~その金脈と人脈」でジャーナリストとして不動の立場を築き、多岐にわたる執筆テーマで多くの著作があり「知の巨人」と呼ばれた立花隆さんが、4月30日に亡くなられていたことがわかりました。享年80歳でした。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、軍事アナリストの小川和久さんが、親しい付き合いはなかったものの、生前2度ほど「すれ違う」ような機会があったとエピソードを披露し、故人を偲んでいます。

「知の巨人」と軍事問題

立花隆さんの訃報が伝えられました。病気療養中のところ、4月30日に亡くなったそうです。私自身は立花さんとは付き合いがありません。講談社で『週刊現代』の記者をしている頃、「田中角栄研究」で売り出したばかりの立花さんは頻繁に講談社に顔を出していて、編集部の部屋や地下鉄有楽町線の護国寺駅の構内などで、通りすがりに会釈するくらいでした。それでも2回ほど、「すれ違う」ような機会がありました。私が見た(知った)立花さんについて書いておきたいと思います。

1回目は1997年8月4~5日、オープンしたばかりの東京国際フォーラムで「ロボットと未来社会」と銘打った日本機械学会100周年記念シンポジウムが行われ、その司会進行役が立花さんでした。基調講演者は未来学者のアルビン・トフラーさん。マイクロソフトで副社長を務めた西和彦さんが私にも声を掛けてくれ、パネリストとして出席した訳です。

なにしろ、東京大学の教授らロボット工学の権威が揃っていますから、私が発言するとすればクソがつくほどのリアリスティックなコメントしかありません。

私は会場の東京国際フォーラムがデザイン優先で、利用者の安全など考えていない設計になっていることを指摘し、ここにロボット工学が応用されれば問題を克服できるだろうと述べました。人間の能力を補い、役に立つことがコンピュータやロボットの役割だと考えれば、そういう話になると考えたからです。

大きな拍手とともに「そうだ、その通りだ!」と大声を上げて賛同してくれたのは、ガンダムの生みの親・富野由悠季さん一人だけ。会場は静まり返り、立花さんからはコメントはおろかリアクションもありませんでした。私の発言を無視したのではなく、立花さんの意識は別な世界を泳いでいて、地べたを這うような私のコメントを前に、述べるべき言葉がなかったのだと思いました。

もう1回は、話題になっていた軍事関係の書籍を立花さんが激賞していたときのことです。しかし、その本は誤りが多すぎ、むしろ想像の産物と言ったほうがよいほど、ノンフィクションとはほど遠い代物でした。私は立花さんと親しい編集者にその点を告げ、立花さんの汚点になる恐れがあるので教えてあげるよう伝えたのですが、編集者はその場で言いました。「大物になりすぎて、編集者のいうことなんか聞いてくれないんですよ」。

しばらくして、親しくしていた外国メディアの記者が立花さんと家族ぐるみの付き合いだと知り、「立花さんは『知の巨人』なのだから、どこに惚れ込んだのか知らないし、どんな事情が絡んでいるにしろ、あの本を激賞するのはまずいよ」と話しました。すぐに立花さんに伝えたと連絡があり、それから立花さんはその本に言及することはなくなりました。

以上のようなささやかな接点から見えてくる立花さんは、自由に意識を羽ばたかせて知的に遊んでいる稀有の人であり、同時に、思い込みの強い人、と言ってよいのではないかと思います。そうであればこそ、知の巨人たり得たのだと思います。ただ、日本の知性の最高峰をきわめた立花さんもまた、軍事問題については知識に欠け、無防備であったこともわかりました。ご冥福をお祈りいたします。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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