危機管理のプロが検証。熱海の行方不明者「氏名公表」は問題なしか

shutterstock_1917822467
 

7月3日に大規模な土石流が発生し、今も行方不明者の捜索が続けられている静岡県熱海市伊豆山地区。災害発生2日後の5日夜に、安否不明の住民64人の氏名を公表したことで、40人以上の所在確認ができ、捜索活動の助けとなりました。メルマガ『NEWSを疑え!』を主催する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは、この行政の動きを良しとした上で、報道と法令を絡めて検証。重大な災害発生時に個人情報をどう扱うかについて、メディアも静岡県と熱海市も認識不足があったことを明らかにし、災害対策基本法の周知を進める必要性があることを浮き彫りにしています。

危機管理から見た災害不明者の公表

熱海を襲った土石流災害の捜索活動が続けられています。降雨の中、また炎天下、泥濘に足を取られながら懸命の活動を続けている警察、消防、自衛隊、海上保安庁などの皆さんに心より敬意を表したいと思います。

今回の土石流災害については、行方不明者の把握が活動の成否を分ける鍵となり、静岡県の川勝平太知事、難波喬司副知事の判断により作業が加速された点が評価されています。7月6日付の読売新聞は次のように報じました。

「土石流災害の後、所在が確認できなかった住民64人の氏名を静岡県と熱海市が公表したところ、対象者は1日で40人以上減った。多くの情報が寄せられ、確認が一気に進んだためだ。

 

熱海市は5日夜、被災地域の住民基本台帳を基に、県を通じて64人分の名簿を公表。市と県のホームページにも掲載した。市の窓口には本人や親族らから電話で、『ホテルに避難している』などの連絡が相次いだ。市は生年月日などを聞き取り、身元を確認した。

 

中には、住民票を残したまま転居したため名簿に掲載された人や、事前に連絡していたのに、市の手違いで『不明者』として扱われていたケースもあった。情報提供によって、名簿に載っていなかった不明者も新たに2人判明した。

 

斉藤栄市長は『不明者が大幅に減ったのは名簿を提供した成果。今後の捜索にもプラスになる』と話した。棚橋防災相も閣議後の記者会見で、『生命、命を守るということが最優先なので、(県や市は)適切に対応されたものと理解している』と評価した。

 

県はこのほか、県警に安否が分からないと通報があった5人について、氏名をカタカナで公表した。

 

岩手大地域防災研究センターの越野修三客員教授(防災危機管理)の話『所在確認を通じて実際に行方不明となっている人を絞り込めれば、集中的に捜索すべきポイントを特定して人員を効率的に投入できる。過去には個人情報保護の問題が壁となって、公表が遅れるケースもあった。国は指針を示すなどして、迅速な公表に向けた仕組み作りを主導すべきだ』」(7月6日付 読売新聞)

この越野さんの談話について、フェイスブックを通じてT・Oさんから「既に個人情報保護法第23条と災害対策基本法第49条の十一の3とで本人の同意なしに公表できることになっています。個人情報の活用を促す通達も何度も出ています。被災地自治体担当者が知らないだけです」との指摘が寄せられました。

そこで調べてみたところ、7月8日付の朝日新聞には静岡県と熱海市が法律の趣旨を充分に理解していなかった様子が報じられていました。

「県は5日朝、人命救助を迅速に進めるため、氏名の公表が必要と判断したという。内閣府にも個人情報などの法的問題について相談し、県と市は公表を決めた。 難波氏は『こうした個人情報の公表の経験はなく、完全に手探りだった。県個人情報保護条例に基づき、内閣府から「積極的に公表すべきだ」と助言ももらったので公表した』などと語った」(7月8日付 朝日新聞)

print
いま読まれてます

  • 危機管理のプロが検証。熱海の行方不明者「氏名公表」は問題なしか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け