先日掲載の「正恩の妹また激怒。韓国脱北者団体が飛ばしたビラを恐れる北朝鮮」でもお伝えしたとおり、韓国から飛来するビラに過剰なまでの反応を示す北朝鮮指導部。そんな隣国に忖度するかのように文在寅政権が成立させた「対北ビラ禁止法」が、韓国国内はおろか国際社会からも大きな批判を浴びています。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、同法に対して国内外で上がっている非難の声の数々を紹介。韓国政府の「国際的にも許容される水準」との反論にも、各方面から厳しい指摘が相次いでいる現実を伝えています。
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対北ビラ散布禁止法は表現の自由に違背する
去年2020年6月末に自由北朝鮮運動連合とクンセムという韓国にある北朝鮮の住民を救おうとする団体が北朝鮮に向けてビラを飛ばしたことに怒りをぶちまけた金正恩と金与正兄妹の顔色を窺うように、文在寅政権は、対北ビラ禁止法を国会で通過させた。
これに関して去年のその時点から、こんな弱腰でいいのか、あるいは表現の自由を保証しているという憲法に違反するのではないかなど、いろいろと議論が噴出していた。
当時も米国ウィルソンセンターの韓国歴史・公共政策センター長は、ツイッターで「北朝鮮は、韓国が関係改善を切に望んでいることを知っているため、韓国をガスライティングしているのだ」とアップしていた。
ガスライティングとは、相手の心理や状況を巧みに操作し、その認識や判断を狂わせ、相手を思うがままに統制・支配する心理操作の一形態で心理学用語である。韓国ではよく使われている。
今年に入って、対北ビラ禁止法が表現の自由を侵害する恐れがあると国連(UN)特別報告官が指摘したことに対し、韓国政府が最近、「これは、国際的にも許容される水準」と反論していた。
これに対し国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは7月12日、韓国政府の対応に対し、「状況から逃れるための言い訳」とし「韓国政府の反応は正直言って、とんでもない」という内容の批判声明を出していた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのフィル・ロバートソンアジア担当副局長は7月12日、ヴォイスオブアメリカ(VOA)放送に送った公式声明で、「文在寅行政部は韓国人の基本的人権を明らかに侵害する法に対する徹底した検討を避けたがっていて、その都度口実を作って逃げている」、そして「金正恩兄妹をなだめようとする政治的目的が韓国人に対する人権侵害につながったもの」とした。
さらに「人権弁護士を標榜する(文在寅のこと)ものが、世界最悪の人権弾圧政権の一つである北朝鮮政府を擁護するために自国の人権を侵害していることはあまりにも矛盾していて悲しいことだ」と述べた。
これに先立ち今年4月、トーマス・オヘア・キンタナ北朝鮮人権特別報告官、アイリーン・カーン国連意思・表現の自由特別報告官らは、韓国政府に、対北ビラ禁止法が表現の自由を侵害する可能性があるとして再検討を勧告する書簡を送っていた。