兄とともに金メダル獲得。柔道・阿部詩を奮い立たせた柔道家の言葉

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先日掲載の「日本柔道再建の立役者・井上康生は選手に何を厳しく指導しているのか」でもお伝えしたとおり、五輪史上初の兄妹同日優勝を果たした柔道日本代表の阿部一二三・阿部詩両選手。兄とともに猛練習を重ねてきた妹の詩選手ですが、彼女が大切に読み込んだ書籍として紹介された『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』が話題となっています。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、その中から詩選手が特に感銘を受けたというエピソードが取り上げられています。

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柔道・阿部詩選手を奮い立たせた話

兄・阿部一二三選手と共に日本柔道史上初となる兄妹での同日金メダルを獲得し、日本中を沸かせた阿部詩選手。

快挙の背景には、五輪に挑む重圧の中で日体大柔道部の恩師から手渡された1冊の本と、そこで出逢った言葉がありました。

本日は、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』の中から、阿部詩選手が深く感銘を受けたという、山下泰裕氏のお話をご紹介します。

※ 阿部詩選手のコメントは末尾に掲載しています。

「人の痛みが分かる本当のチャンピオンになれ」 山下泰裕(東海大学教授)

2000年のシドニーオリンピックを振り返ってみて非常に嬉しいことがあります。一つは篠原信一が決勝戦で負けましたね。誤審ではないかと私も抗議しましたが、篠原は「あれは自分が弱かったから負けた」「審判に不満はない」という発言をしました。

篠原は、たとえあれが自分の一本ではなくて相手の有効になったとしても、本当に自分に力があったら、残り時間は十分にあったし、あの後で勝てたはずだ。本当の力が自分になかったから、それを取り戻せなかっただけで、そういう意味で自分に絶対的な強さがなかった、と。

それから「審判に不満はない」というのは、審判が間違えるような、そんな試合をした自分に責任がある。誰が見ても納得するような柔道をしなければいけなかったんだ、ということです。

他人を云々するのではなく、それに対して自分がどうすべきであったかと、自分自身を深く見つめる。ああいうことが起きて、初めて彼が本当はどういう人間なのか、どういうことを大事にしているのか、それが明らかになったと思うんですね。そこには人間として非常に大事なことが含まれていると思うのです。

我われは何か事が起こるとすぐに人を批判します。だけど、人を批判しても何の解決にもならないんですね。それに対して自分はどうあるべきか、自分は何ができるのか、すべてを自分に置き換えて考えていかないと、何も解決しないんです。

篠原は見た目は、無骨でぶっきらぼうな男ですけど、今回のことで彼の人間性を見たような気がするんです。

もう一つは初日に野村忠宏が60キロ級で優勝しました。前の日に試合のあった人間は、次の日の人間が力を出し切ることができるようそばに付き人として付くということを、前もって決めていたんですね。

それで試合が終わった日は、野村は明け方の4時頃までマスコミの対応をし、次の日も朝8時から対応して、それが終わってお昼の12時に試合会場に、車の中でハンバーガーを食いながら駆けつけて、中村行成の付き人をやったんですよ。

それで中村が負けた。

負けて控え室に帰ってきて、がっくりと座り込んで着替え始めた。その時、野村が中村の柔道着をものすごく大事に大切に一所懸命畳んでいるんです。付き人は試合に向かうまでですから、そこまでやる必要はないんです。それなのに負けた中村の柔道着をものすごく愛しそうに丁寧に丁寧に折り畳んでいる。

その野村の姿を見た時、我われコーチもものすごく心打たれた。

ああ野村は人間的にもまた成長したな、人の痛みが分かる本当のチャンピオンになったな、と思ったものです。

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