お願いベースの自粛に効力なし。政府には「絶対に」の豪胆さが必要だ

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約半月にわたった緊急事態宣言とオリンピック開催という矛盾した状態を経て、すぐにお盆休みがあり、24日にはパラリンピックが開催されます。現在のコロナ対策で、首都圏を中心に続く感染拡大を抑えることはできるのでしょうか。メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、政府や自治体が打ち出す「お願いベース」の自粛では五輪という「祭り」で緩んだムードを変えることはできないと主張し、政府に「覚悟」を求めています。

祭りのあとのこと

オリンピックが終わった。片足を五輪という熱い湯に、もう片方はコロナという冷たい水につけていたかのような2週間余りが過ぎ、今いきなり熱い湯だけが取り上げられてしまった。残ったのは水の冷たさだ。震えるほどの冷たさだ。日々更新される「過去最多」の感染者数、この現実の冷たさを無視できる者などこの世にはいまい。

この事態に政府は既に機能不全に陥っていると言っていい。いよいよ短絡的な発想ばかりが出て来るようになったからだ。例えば、約一年前にはCOVID19を指定感染症2類相当から5類相当へと格下げすることが検討された。そして先週は先週で重症患者以外は入院対象としない、といった方針が発表された。

こうして並べると、どちらもともに感染者数のインフレーション的増加を暴力的に解決するためのデノミ政策に過ぎないということがよく分かると思う。そして、もう一つの共通点はどちらも朝令暮改案件ということである。

大体、通貨のゼロと同じように患者を切り捨てるなど世の人に受け入れられよう筈もない。暮改せざるを得ないことをわざわざ朝令するのである。一体、何がしたいのか、言いたいのか、理解できないのは当然のことであろう。

こういったことは「改めたから許される」といった類のものでは決してない。その余波は必ず幾ばくかの被害を現場当事者に与える。実際、本件に関しての知事たちの困惑は明らかであり、そこで失われた数日は取り返しがつかないのである。

そんな中でオリンピック組織委は「当該大会におけるコロナ対策は十分機能した」と自己評価している。これを聞いて、何だか別次元の話を聞いているように感じたのは自分だけか。これも比喩的表現にはなってしまうが、さんざんに台所を荒らされた挙句に火事まで起こされて「今日の料理はうまくできた」と言われているようなものではないか。しかもその火事は今や家全体にまで広がっている始末である。どうやって消火するつもりなのか。

もちろん今世界中で発表されている研究論文の中には、現在のデルタ株による世界的な感染爆発は季節的なものではないか、といった主旨のものも多数ある。そういった主張を丸呑みしたとしても、やはりこの五輪開催が国民心理に対して期間限定的に免罪符のようなものを与えたことは無視できない。

「五輪」という裏支え的な保証があったからこそ開催できたイベントも多かった筈だ。「五輪」という免罪符があったからこそそういった場所へも堂々と参加できた人も多かった筈だ。そもそも五輪会場周辺の混雑がテレビ等で報道されている以上、その他の場所での抑制など利く道理がなかろう。

さらに今後危惧されるのは、五輪という心理的期間限定がだらだらと締まりなく伸びて行くかもしれないということである。開会式の4連休、閉会式の3連休、その余韻のままにお盆休みに突入し、8月24日からはパラリンピックが始まる。そうなると最長で9月5日までは心理的免罪符の効果で人流は減らないかもしれない。

にもかかわらず、国も都も「できるだけ」「可能な限り」の一点張りである。お願いベースの自粛というものは一旦その堰が切られれば容易に元に戻るものではない。全ての基準が個々人の中にある以上、緩めようと思えば際限なく緩めることができるからだ。

今、政府に必要なのは「絶対に」と言える豪胆さである。もちろん批判も出るだろう。しかし同じ批判を受けるにしても姑息な朝令暮改案件よりは遙かにましではないか。オリンピック云々、ワクチン云々、そういったつまらぬ自慢話はもういい。そろそろ揺るがぬ覚悟を見せてほしいものである。

image by:A.RICARDO / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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