東京五輪のために新しく建て替えられた「新国立競技場」は、結局、一般観戦客が入らないままで大会が終わりました。老朽化に伴う補修・修復ではなく、なぜ全面解体と建て替えだったのか。その背景には、大きなカネが動く「神宮外苑再開発」事業がありました。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年8月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
新国立競技場「ザハ案白紙」で約67億円の損失
東京オリンピック・パラリンピック2020メイン会場である「新国立競技場」は、結局、一般観戦客が入らないままで大会が終わりました。
この施設の総工費は1,569億円、当初計画1,300億円、イラクの建築家ザハ・ハディド氏の案では3,462億円になる予定でした。
2014年6月、早々と旧国立競技場は解体。既存施設の有効利用で「お金のかからないコンパクト五輪を目指す」と言っていた矢先の、国立競技場解体です。
老朽化に伴う補修・修復ではなく、全面解体でした。
壊す決断は早かったですね…。
新国立競技場のデザインが白紙撤回されたことが話題になりましたが、撤回されたザハ・ハディド氏の事務所には、13億9,000万円も支払われていました。
ザハ・ハディド案白紙撤回で無駄になった費用の総額は、68億5,930万8,216円だそうです。日本スポーツ振興センター(JSC)が、2016年に発表しています。
大盤振る舞いでしたが、この事実、もう忘れてはいませんかね…。
そんなことがあったなぁ~という、もう遠い昔のような出来事に感じますが、このことは東京五輪が終わった後に、予算を含めてしっかりと検証しなければならないことの1つだと思います。
国立競技場建替えの背景にある「神宮外苑再開発」事業
随分前にラジオ番組で、タレントでコラムニストのプチ鹿島さんが「国立競技場建替えは神宮再開発のためにある」と紹介していました。私はそれをずっと覚えていて、そのときに、プチ鹿島さんが書かれた記事を、ずっと「お気に入り」に残していました。
いつか掘り起こしたいと思っていたのですが、今回、東京都立大学社会学教授の宮台真司先生がネット番組に出られたときに話題にされておられたので、東京五輪大会が終わった今のタイミングで検証しようと思い、ネタを掘り起こしてみました。
そんな中で、無観客開催の新国立競技場をめぐり、こんな記憶が蘇りました。2019年7月25日朝日新聞の記事です。
「神宮外苑一帯再開発計画」…この新国立競技場建設と、同時進行していたこの計画に、国立競技場建替えの「本質」があるのではないかという記事です。
このことに関しては、当時からいろんな人が指摘していました。なかでも、プチ鹿島さんも取り上げておられましたが、ネット情報番組「デモクラシータイムス」のジャーナリスト山田厚史氏や、漫画家の青柳雄介氏が、2015年に「AERA」で指摘した記事が、東洋経済に載っていましたが、そこでは、この神宮再開発のことを「便乗焼け太り」と表現されています。
この神宮外苑の周辺は、明治天皇を祀るのにふさわしい沿道を維持するために、建築物の高さ制限などにより、景観を守ってきたところです。
しかし、地区外ながら、近い青山通り沿いに170メートル級のビルが建ち並ぶようになりました。
スポーツ施設の老朽化……よく言われる再開発の大義名分ですが、これが発展して、神宮外苑地区の「オフィス・商業施設・住宅開発」へとなっていくのですね。
明治神宮は神社本庁があるところで、まさに保守思想の砦のはずなのですが、明治天皇への畏敬の念である景観維持よりも、優先される「大義名分」が存在するということになるのですね。
逆に、思想による景観維持という「錦の御旗」があるので、これを打破するためには、なにか大きなインパクトが必要なわけで、それが「東京五輪国家プロジェクト」のもとに行われる「国立競技場建て替え」で、それまでの規制をなし崩しにして、再開発を可能にしたというものなのですね。
2015年に山田氏や青柳氏が指摘した「便乗焼け太り」そのものです。すごいなぁ~。これだから自民党は強いわけです。
前述とは別の朝日新聞記事には、以下のように書かれています。
老朽化した神宮球場や秩父宮ラグビー場を建て替え、地区一帯にスポーツ施設などを集める都の街づくり計画が動き出した。JSCで国立競技場の建て替え問題の最前線にいた高崎義孝(63)は「都、JSC、民間企業の水面下の動きが一気に表に出た」と振り返る。地区内で本社の建て替えを計画してきた伊藤忠は、社内報に「千載一遇の機会を得た」と記した。
いやぁ~、まさに「これ」です。