タリバンが権力を掌握したアフガニスタンでは、撤退期限の8月末までに自国民や協力者を救出するのに必死の動きを見せる国々を尻目に、大使館が通常業務を悠々と執行している国がいくつかあります。7月には王毅外相がタリバン幹部と会談していた中国がその1つ。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、アメリカが想定していなかったか過小評価していたタリバンの動きを中国が正確に掴んでいたことの意味の重さを説き、今後、中国が手にした「アフガン・カード」をどう使うのか、警戒を促しています。
中国は「アフガン・カード」を手にした
アフガニスタンの政権崩壊を受けて各国の動きが活発化していますが、とりわけ突出しているのが中国です。中国の王毅外相は18日以降、イギリス、イタリア、トルコ、パキスタンの外相と電話会談を行いました。習近平国家主席も18日にイラン、イラクの大統領と電話会談しています。
この中国の動きは、70キロにわたってアフガニスタンと国境を接し、アフガニスタンを経由して新疆ウイグル自治区の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)が国内に浸透することに神経を尖らせている隣国としては、当然と言えば当然のことです。しかし、それだけではありません。
王毅氏は7月28日、タリバンの幹部たちと天津で会談し、米軍撤退後のアフガン情勢について話し合っているのです。むろん、アフガンがテロの温床にならないようクギを刺すことは忘れていません。そのあと、中国はタリバンの拠点に人を送り、米軍撤退後の中国との関係について確認を行いました。それもあって、タリバンのカブール制圧後も中国大使館は撤退することなく通常業務を続けています。
中国の中央電視台は、女性キャスターによるタリバン報道官の独占インタビューを流しましたが、途中で紹介されたカブールの状況について現地記者は、ことさらに平穏を強調していました。タリバンの報道官も「中国は偉大な隣国。アフガニスタンの平和と和解のため建設的な役割を果たしてきた」と中国への期待を隠していません。
このような中国の動きを見ると、アフガンについて米国は中国にしてやられたという印象です。少なくとも、米国は7月28日の天津での王毅外相とタリバン幹部との会談によって、アフガン政権崩壊の前兆を掴むべきでした。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は19日、米当局者らの話として、在アフガニスタン米大使館員らが先月、ブリンケン国務長官らに宛てた7月13日付の極秘公電で、8月31日を期限とするアフガン駐留米軍撤収直後にアフガン政府が崩壊する可能性があると分析していたと報じました。WSJは、タリバンの進軍が差し迫っていることや、アフガン政府軍がこれを阻止できないことについて、バイデン政権は警告を受け、米軍に通訳などで協力したアフガン人らの国外退避の加速などを要請されていた最も明白な証拠、と指摘しています。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は18日、「11日間でアフガン政府軍と政府が崩壊すると示唆する報告は見ていない」と指摘。情報機関が早期崩壊を予期できなかったとの見方を示しましたが、都合のよい情報に目を奪われた印象は否めません。
今後、中国はさまざまな問題について各国に「アフガン・カード」を高く売りつけようとするでしょう。残念ながら、日本の出る幕などありません。(小川和久)
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