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なぜ今アイフルがソーシャルレンディングに参入?勝算は?経済アナリスト馬渕磨理子が突撃取材

お金を借りたい企業と、貸したい個人投資家をつなげる「ソーシャルレンディング」。銀行に預けるよりも高いリターンを期待できてミドルリスクとの評判でしたが、業界大手が貸付先の融資詐欺に遭って廃業するなど、暗雲が立ち込めているサービスとも言えます。そんなソーシャルレンディングに、消費者金融でおなじみの「アイフルグループ」がこの9月から新規参入すると言います。勝算はあるのか?なぜ今なのか?展開するAG(アイフルグループ)クラウドファンディング株式会社の社長に、経済アナリストの馬渕磨理子氏が質問をぶつけます。

筆者プロフィール:馬渕磨理子(まぶち まりこ)
経済アナリスト。同志社大学法学部卒、京都大学公共政策大学院、公共政策修士。医療法人で資産運用・管理を行い、そこで学んだ財務分析・経営分析を生かし、金融情報配信会社であるフィスコでアナリストとして、個別銘柄・市況の分析を行う。全国各地で個人投資家向けセミナーで講師として多数登壇。現在は日本クラウドキャピタルでマーケティングに従事。大学時代はミス同志社を受賞。

預金に代わるサービスに?アイフルがソーシャルレンディング参戦

不祥事が相次いだソーシャルレンディング業界

ソーシャルレンディングとは、個人投資家とお金を借りたい企業をインターネット上でマッチングするサービスで、クラウドファンディングと呼ばれる投資手法の1つです。マイナス金利下で個人マネーの受け皿になってきたのが、このソーシャルレンディング。預金などと比べて5%から7%程度の高い利回りが得られることから人気を集めているマーケットです。

しかし、直近では最大手のSBIソーシャルレンディングが手がけるファンドで集めた資金を目的外に流用していたことが判明しています。SBIソーシャルレンディングが太陽光発電事業者に融資した資金が計画通りに使われていなかったことや、業者の社長が金融機関から融資金をだまし取った詐欺容疑で逮捕される事態にまで発展しており、SBIは5月24日に事業撤退を発表しています。また、ソーシャルレンディングの草分け的存在のmaneoマーケットも、集めた資金の目的外流用が発覚して金融庁から処分を受けています。

本来であれば、お金に余裕がある、または、預金するだけではもったいないと感じている個人と、お金が必要な企業を結びつける「お金が循環」する“よい仕組み”のはずのソーシャルレンディングです。

しかし、ここ最近の不祥事のニュースにより、悪いイメージを持っている個人投資家もいるのではないでしょうか。

アイフルグループが新規参入

そのような業界に、消費者金融のアイフルがソーシャルレンディング業界への参入を表明しました。

アイフルグループの手掛ける、AGクラウドファンディングの商品を簡単に説明しましょう。

参入の当初はアイフルグループ向けの貸付に限ります。つまり、『東証1部上場企業であるアイフルへ、ファンドを通じて個人投資家がお金を貸す』ところからスタートします。これは、アイフルの社債を購入することとほぼ変わらない形で投資可能なことから、人気商品となる潜在力を持っています。アイフル本体への貸付になるため、「低リスク・低リターン」です。1%台のリターンになりますが、それであっても、預金しているよりもずっと有益であり、ニーズは高いと言えます。

今後の展開としては、アイフル子会社への貸付、さらには、アイフルグループ以外への外部向けの貸付のサービスも展開予定としています。

ここで、多くの疑問が出てきます。

・なぜこの時期に参入を決めたのか?
・リスクはないのか?
・今までのソーシャルレンディング事業者の不祥事をどう考えているのか?
・AGクラウドファンディングの対策は?
・1%よりも利回りの高い商品を手掛けるのか?

気になる点について、インタビューを通じて伺いました。

商品開発者にインタビュー

AGクラウドファンディングの社長・中馬俊彦さん、専務取締役・澤田聖陽さんにお話をお伺いしました。

プロフィール:中馬 俊彦(ちゅうま としひこ)
AGクラウドファンディング株式会社 代表取締役。アイフル株式会社で主に人事・教育・経営企画業務に従事。2012年6月、同社のグループ会社である「AG債権回収」「アイフルパートナーズ」の専務取締役(兼務)として事業再生、不動産再生事業などを手掛ける。2021年2月、AGクラウドファンディングの代表取締役に就任。

プロフィール:澤田 聖陽(さわだ きよはる)
AGクラウドファンディング株式会社 専務取締役。国際証券(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、松井証券を経て、ジャフコ、極東証券にて投資業務、投資銀行業務に従事。2013年にSAMURAI証券(旧AIP証券)の代表に就任。投資型クラウドファンディング事業を立ち上げ拡大させる。2020年10月、AGクラウドファンディング専務取締役に就任。

馬渕:今日はよろしくお願いいたします。中馬社長は、今回、AGクラウドファンディングの代表に就任されたわけですが、これまでは、どのようなご経歴なのでしょう。

中馬:私は、アイフルのプロパーです。教育、人事、経営企画に携わってきました。AGクラウドファンディングの社長就任までは8年半ほど不動産担保付債権に携わってきました。

馬渕:なるほど。担保のスキームの経験が長く、よく熟知されているのですね。今回のAGクラウドファンディングにその経験が活かされているわけですね。

中馬:そうですね。後ほど詳しく述べますが、不動産担保付債権の実務経験があることは、AGクラウドファンディングの強みです。その他、別会社で事業再生に携わってきました。経営不振になって金融機関の支援が受けられなくなったホテル等を買わせていただき、それを再生したいスポンサーに雇用継続を前提に譲り渡していく。自社で再生を手掛けたものもあります。

馬渕:どちらかというと、前向きな金融に携わってこられたわけですね。澤田さんに伺います。新規参入されるソーシャルレンディング業界は、不祥事のニュースを耳にします。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。

澤田:ソーシャルレンディングは年5%以上の利回商品が多いですが、5%というのは決して低い数字ではありませんよね。国債や定期預金は0.1%にすら満たないものも多いですし、株の配当金も2%から3%といったところでしょう。ソーシャルレンディングに投資する時、「この案件は大丈夫か」と案件リスクを恐れる人が多いでしょう。しかしある意味で、貸し倒れが起きる可能性があるからこその高い利回りであり、2018年までほとんどの会社で案件の貸し倒れが起きていなかった状況こそ不自然であるとも考えられます。

馬渕:貸倒れが起きていなかったのは、無理・歪みがあったのでしょうか。

澤田:日本のソーシャルレンディング業界は貸し倒れがほとんど発生していないだけに、各社とも絶対に貸し倒れを発生させないような『無理のある業務運営』を行っていた可能性もあります。その結果、投資家に対して虚偽の説明や無謀な融資を行っていたケースがありました。行政処分を受けた会社もあります。そういった中で、投資家が見るべき視点は投資先のソーシャルレンディング会社が「どれだけ信頼できるのか」という点です。

アイフルグループが参入する2つの狙い

馬渕:そんな中、アイフルグループがソーシャルレンディング業界に参入することが明らかになりました。アイフルと言えば消費者金融の大手ですが、なぜ、ソーシャルレンディングに参入を決めたのでしょうか。

中馬:大きく2つ狙いがあります。アイフル本体の資金調達の多様化です。アイフル自体が銀行からの借入や社債の発行で資金調達を行っていますが、ソーシャルレンディングで一般の方から資金を調達するのも有力な方法になり得ると考えています。

馬渕:なるほど。もう1つは。

中馬:アイフルグループは、貸金業者として54年の歴史があります。この間、貸付事業で破綻もせずに成長を続けてきました。貸付においてノウハウがあります。ソーシャルレンディングも基本的には貸付の事業ですので、貸付の審査、回収方法には自負があります。

馬渕:企業の見極めには自信があると。

中馬:はい。この我々の見極めの力に、一般の投資家の方々にも乗ってもらうことで、「個人の方の資産形成に貢献」することができると考えています。

馬渕:アイフルグループが、個人の資産形成の分野に参入することは金融業界において、大きなインパクトだと見ています。

中馬:まずは、貸付先はアイフルグループ内だけでスタートします。

馬渕:と言いますと、個人投資家は上場企業のアイフルに貸付することになりますか?

中馬:そうです。参入当初はアイフルグループ向けの貸付に限ります。事業が軌道に乗り、諸条件が整えば、アイフルグループ以外への外部向けの貸付のサービスも展開予定としています。

馬渕:アイフルグループへの貸付となりますと、ある程度審査も安心なイメージがあります。

中馬:とは言え、内部の人間が審査することは利益相反になりますので、できません。知見のある弁護士を含め審査を厳しく行ったうえでの貸付になります。

馬渕:グループ内の貸付といっても、第三者のチェックが入るのですね。

中馬:はい。そして意外かもしれませんが、アイフルグループは、今まで自らお金を貸し出すビジネスモデルを展開していました。しかし、今回、はじめて自社のお金貸し出さないプラットフォーム事業(ソーシャルレンディング)をスタートすることになります。

馬渕:確かに。プラットフォーム事業ですと、数多くの投資家からお金を集めるビジネスモデルになりますね。

中馬:はい。そして、今までと大きく異なるのは、資金需要者のニーズに応える事業を行ってきましたが、今度は、資産の運用を考えている方を対象にしたサービスであることです。

馬渕:今までと違う層に対して、ビジネスを展開する。新規獲得はどうされる?

中馬:すでにソーシャルレンディングをされている投資家をメインに集客を行っていきます。同業他社さんに弊社の開業のお知らせにご協力いただいたり、弊社のグループ会社であるライフカードの会員の皆様にメール配信もいたします。その他、リスティング、アフィリエイト、ディスプレイ、記事広告など、開業に合わせて広告を広げていきます。

馬渕:ほかのソーシャルレンディングとどう差別化するのか?強みは?

中馬:アイフルグループ向けの貸付の部分は、アイフルグループは上場企業ですので当然に上場審査基準をクリアしており、安全です。また外部貸付はアイフルグループの取引先の金融機関から資金需要者を紹介していただく提携も考えており、一定の安全性を確保できると考えています。

馬渕:外部貸付はどのような商品になるのでしょうか?

中馬:外部貸付は不動産担保融資を中心に考えています。ここで重要になるのが担保価値を見る目です。これが誤っていると担保からの回収で元本が棄損する投資家のリスクが発生します。一方で評価が保守的すぎては資金需要者のニーズを満たせない可能性も生じます。この適正な担保評価については、アイフルグループの子会社であるAG債権回収で不動産担保付き債権の買取と回収を約20年やってきた実績とノウハウがあります。買取は入札方式なので高い値段をつけなければ落札できず、一方で高すぎては買っても損失が出るという中で、不動産を見る目が磨かれて来ました。私が同社に在籍した8年半では、高額の不動産担保ローンについて損失は発生しておらず、必ずやご満足のいく担保評価を提示できると考えています。

馬渕:せめぎ合いの中で値段を出すプロですね。中馬さん自身も、AG債権回収で実務をされていた経験があるのですね。

中馬:はい。そのため、外部貸付をする際の担保評価は、このノウハウを使うことができます。ソーシャルレンディングは基本的に元本保証がない商品ですが、我々としては貸倒れを出さないことを最大の命題として運営していきます。ソーシャルレンディングが安心して投資できる業界だという世界を創りたい。そのための活動を行っていきます。

不正をどう防ぐ?ソーシャルレンディング業界の今後

馬渕:足元のソーシャルレンディングの動向をどのように見ていますか?

澤田:ソーシャルレンディング業界はここ数年、事故があるのは事実としてあります。モラルハザードが起きている。金融商品であれば、一定のリスクがあるのは当然ですが、その説明されているリスクの範囲を超えた不正などによる「損失」が出てしまっているのが、今の業界の問題点です。例えば、他社事例で、目的外の資金流用があったのですが、この点は我々のプラットフォームではモニタリングを適切に行っていくことによって厳しく管理していきます。こういった、「正しい損」以外の損失、不正が起こらないようにしていきます。

中馬:立ち上がりは業界の中では遅いものの、先行事例を参考にできる点も強みです。また今までアイフルグループで培ってきたノウハウと合わせて、上場企業としてのコンプライアンス体制で取り組んでいきます。後発ではあるものの、業界の健全化と成長に寄与して行きたいと思っています。

馬渕:大手であっても、上場企業が親会社であっても事故が起きています。

中馬:ソーシャルレンディング業界参入にあたり、今までの不正貸付、行政処分を受けた事例をすべて調べました。これらの多くが「自己募集型」です。自己で募集し、貸付判断し、実行できる会社ばかりでした。やはり1社の中で判断が完結できるとなると、違う目的に暴走し兼ねないです。弊社AGクラウドファンディングは、あくまでも募集をするだけで、貸付と審査をするのはグループの別会社です。社長も別で、お互いに独立した会社が審査・貸付業務をやります。同じグループ内の企業とはいえ、この形を取ることは牽制機能が働くと考えています。

馬渕:仕組み的に牽制機能を働かせることが、ソーシャルレンディングが“危なくない”業界になるポイントですね。

澤田:とは言え、SBIの事例は社会的なインパクトが大きいです。アフターSBIの業界は、以前のレギュレーションに戻す雰囲気ではありません。金融庁もかなり厳しく監視しています。その状況の中で、業界に参入しますので、今のレギュレーションに合わせて事業を進めていきます。

馬渕:ソーシャルレンディング業界はこれからどう発展すると見ていますか?

澤田:海外と比べると規模感が違います。アメリカでは5兆円を超えている。日本は1,000〜2,000億円のマーケットです。ここから、10〜20倍になっていくかというと、今のレギュレーションでは難しいですね。マーケットが拡大していくには、レギュレーションが変わる必要があります。

馬渕:規制が厳しい環境では、マーケットは拡大しないと。しかし、規制しなければ投資家を守れない。アイフルグループがソーシャルレンディング業界に参入し、他のプラットフォーム企業も含めて「危なくない業界」ができあがっていくこと自体がマーケットを大きくするポイントになるのでしょうね。

「預金の代わり」として当たり前に使われる時代へ

馬渕:個人投資家目線で伺います。銀行は定期預金がおよそ0.002%。銀行は企業に貸付していて、ある意味、預金者は貸付者=投資家なんですよね。

中馬:そうですね。その意味で言えば、ソーシャルレンディングはネット上で投資家と企業を直接結びつける役割があります。

馬渕:預金に預けるよりも利回りがいい世界が、ソーシャルレンディングにはありますね。可能性があるだけに、健全な・安心な業界に育って欲しいです。

中馬:資産運用商品として大きな規模になり得ると思い、事業を拡大させていきます。そういう世界を作らなければならないと思っています。そのポイントとなるのが「いつでも投資できる、いつでも出し入れできる」。

馬渕:いつでも出し入れできるソーシャルレンディングは、今ないですね。

中馬:今は、貸付期間が満了して返済されれば、投資家に資金が戻ってきます。1年後に返済されるけれども、半年で引き出したい。この需要には答えられないのです。流動性がない商品なのです。作りたいのは平均利回り3%で回しながら、それがいつでも出し入れできる世界観です。

馬渕:ここまで、構築できれば、ソーシャルレンディング業界は決して廃れることはないマーケットですね。

中馬:そうですね。健全な業界体制が確立できれば、ニーズに望まれる形で拡大していくと思います。

馬渕:流動性の部分ですが、今の1〜2年での満了も流動性は高いと感じています。半年など早い段階で引き出す際のスキームはどのような内容ですか?

中馬:まだまだ構想段階ですが、現金化したい方のファンド持分を他の人が買う「二次流通」と「自社で買い上げる」2パターンがあるのでないかと考えています。

アイフルグループ参入がソーシャルレンディング業界全体の追い風に

貸付・回収には54年の歴史を持つ、ある意味、お金を扱うプロであるアイフルグループがソーシャルレンディングに参入したことは業界に大きなインパクトとなります。

アイフルグループの債権回収のノウハウが個人投資家にも開放され、AGクラウドファンディングのプラットフォーム上で一緒に乗ることができる、新しいサービス。

上場企業としてのコンプライアンスで業界を牽引する企業になれれば、業界が整理され良い方向に向かっていくことを願います。そして、安全な形で個人がソーシャルレンディングを通じて「資産形成」できる社会を実現して欲しいです。

文:マネーボイス編集部
image by:AGクラウドファンディング株式会社
PR:AGクラウドファンディング株式会社

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