渋沢栄一の子孫が説く、日本が国際社会の中で果たすべき「天命」とは

chichi20210222
 

「天命」という言葉がありますが、多くの人は個人に使うものだと考えています。「天が人間に与えた使命」「天のめぐりあわせ」と解釈されますが、これを日本という国に置き換えた時、日本の「天命」とは何を指すのでしょうか。現在放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一の子孫で、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんが、世界の中で日本が果たすべき「天命」について述べています。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

「人事を尽くして天命を待つ」には想像力が必要

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

地球が拳を上げているのかもしれません。永遠に晴れない靄がかかっているようなコロナ禍。日本列島を襲った記録的な豪雨。ハイチの大地震と台風。そして、アフガン情勢。世界中の多くの人々が苦難や悲劇に陥る様子がニュース画面に次々と映し出され心が痛みます。まるで人類の冒とくに対して、天罰が人間社会へ下されているようです。

およそ2500年前に、孔子は「罪を天に獲れば、祈るところなし」という言葉を残しています。天から罪を受ければ、どの神に祈っても無駄であるという意味です。

イメージ的に「天」とは神様であり、その神様がお怒りである、だから人々は処罰されているということになるでしょう。我々は天からの処罰を、首を垂れて受け続けるしかないのでしょうか。ますます憂鬱な気持ちに陥りそうです。

しかし渋沢栄一は、「私は天とは天命の意味であると信じている」と孔子の訓を解釈しています。「天の命令」と聞くと中世の十字軍や現代の原理主義テロリスト等、多くが血を見るシーンを連想してしまいますが、栄一がここで言う天命は違います。

「人間が世の中に活き働いているのは天命である、草木には草木の天命があり、鳥獣には鳥獣の天命がある。」「草木はどうしても草木で終わらねばならぬもので、鳥獣に成ろうとしても成りえるものではない。」「されば孔子が曰れた「罪を天に獲る」とは、無理な真似をして不自然の行動に出ずるという意味であろうかと思う。」「無理な真似をしたり不自然な行動をすれば、必ず悪い結果を身の上に受けねばならぬに極っている。」【「論語と算盤」天は人を罰せず】

要は、己を知れということを渋沢栄一は指摘しています。そして、己を知った上で、自分に見合った行動をすべきである、と。一方で、「不自然な行動をしない」とは何もしない受け身の状態ではないというが大事なポイントです。

自分に限界があることを知りながらも、むしろ自分が与えられた特徴や能力を駆使して活き活きと生きることが天命です。草木は草木でも活き活きとしたほうが天命を全うしているでしょうし、鳥獣もそうで、人も同じでしょう。

とは言いながらも、「天命」を知ることは容易ではなく、自分自身の天命がわかると言える人はほんの一握りです。また、自分の限界と考えると狭い世界に閉じこもってしまうかもしれません。

しかし「天命」=「自然体」と考えたとき、我々には限界があるかもしれませんが、宇宙まで含む自然は限界がなく、我々が知るのは大自然のごく一部にしかすぎません。わからないから存在していないということではなく、わからないからお手上げで降参することでもない。わからないから問いが生じ、問いに答えようとするからこそ新しい世界が拓けてくるのです。

つまり儒教が唱える「人事を尽くして天命を待つ」の「人事」にはイマジネーション、想像力が要されると言えます。

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