庶民とは縁遠いような感覚を持ってしまう、遺産相続を巡る親族同士の争い。しかし元国税調査官で作家の大村大次郎さんによると、いわゆる資産家と呼ばれる人々より、我々庶民のほうが遺産“争族”となってしまうケースが多いのだそうです。それは一体なぜなのでしょうか。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で今回、言われてみれば確かに腑に落ちるその理由を解説。さらに遺された家族を争族状態に陥らせずに済む方法をレクチャーしています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2021年11月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
庶民のための相続対策~相続税よりも怖い“争族”~
前号では、相続税は課税最低限を引き下げられたので、庶民にもかかってくる可能性があるということをご紹介しました。そして特に
- 小金が溜っている人
- 家族のために多額の生命保険に入っている人
- 子供のいない夫婦
- 地価が上がっている地域に家を持っている人
は相続税がかかりやすいということを述べました。
今回は、「争族」についてのお話をしたいと思います。庶民の相続対策で、何よりも気を付けなくてはならないのが、「争族」です。「争族」というのは、相続において遺族同士が争いになってしまうことです。この争族は、相続税よりもよほど大きな問題だといえます。相続税ならば、払ってしまえば解決します。そして、相続税というのは、どんなに高くても遺産の範囲内で支払うことができます。また遺産数千万円程度の相続税は、それほど高く、せいぜい税率は10%~20%で収まります。
が、争族はそう簡単には解決しません。一旦、争族が勃発してしまうと、非常に長引きますし、永遠に解決しない場合も少なくないのです。
「うちには大きな資産はないので大丈夫」と思っている人も多いでしょう。が、「争族」というのは、大きな資産を持っている資産家だけの話ではありません。というより、むしろ、あまり大きな資産を持っていない「庶民の相続」の方が争族に発展するケースが多いのです。
わずかな遺産を巡って、子供たちが相争い裁判沙汰になったり没交渉になってしまうケースはいくらでもあります。筆者は元国税調査官ですが、「争族」ということに関しては嫌と言うほど耳にしてきました。税務署というのは、市民の密告を奨励している役所であり、市民からの密告を受け付ける担当もあるほどなのですが、この市民からの密告でもっとも多いのが、相続に関するものなのです。
しかも、身内からのものが圧倒的に多いのです。どいうことかというと、身内が「だれだれは遺産を隠しているようだ」というタレコミをするわけです。遺族の中で、誰かが遺産を隠しているのではないか、という疑心暗鬼が生じ、それを税務署に密告し、税務署に調べてもらおうとしているのです。こういう情報は、大した証拠もない場合が多いですし、そもそも相続税がかかるほどの遺産がないケースが多いので、税務調査を行うことはあまりありません。が、身内からの密告が多いという事実は、税務署員でさえ気分が塞ぐことです。