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日本「年収30年横ばい」の黒幕は内部留保。労働生産性に見合った賃金を払わぬ大企業の罪=勝又壽良

世界的な物価上昇が起こっているが、日本は「さざ波」程度だ。低物価・低金利・低成長・低失業の4点セットになっている。日本人の賃金が上がらないのは、労働生産性が低い結果でなく、労働分配率が低い「異常現象」である。労働生産性に見合った賃金でないのだ。こういう事実を認識して、「労働に見合った賃金」を受け取り、日本経済を正常化させるべきである。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

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※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2021年11月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

日本は「低物価・低金利・低成長・低失業」の4点セット

サプライチェーンの停滞によって世界的な物価上昇が起こっている。

その中にあって、日本もエネルギー価格の上昇はあるが、物価水準としてならせば「さざ波」程度である。依然として、低物価に変わりない。

欧米の金融当局は、消費者物価上昇に頭を悩ませている。日本では、物価が少しは上がって景気が刺激されれば良いという、「期待感」をのぞかせている。

日本経済はまったく別次元をさまよっているが、低物価だけ突出しているのではない。「低物価・低金利・低成長・低失業」の4点セットになっている。これが特色である。

将来の先進国経済が進むべきひな形が、日本に見られるというイメージもある。だから、このままで良いかと思われがちだが、そうでないことを指摘したい。

日本の労働生産性が低い結果でなく、労働分配率が低い「異常現象」である。労働生産性に見合った賃金でないのだ。こういう事実を認識して、「労働に見合った賃金」を受け取り、日本経済を正常化させるべきである。

ガンは労働分配率の低下

こういう書き方をすると、煽動しているように見えるがそうではない。

日本経済に活力をもたらすには、労働に見合った賃金を受け取ることで所得が増えて消費増につながれば、「万年低物価」という沈滞ムードを打破できる。

1980年代まで、高度経済成長時代の家庭は、すべて「共稼ぎ」でなくても家計を維持できた。それは、年々の賃上げがそれなりに期待できたからである。

現在は、共稼ぎが普通である。それでも、住宅を買えば苦しくなる状態だ。むろん、当時とは潜在成長率で天と地もの違いがあるから当然、起こるべきことである。

ただ、今の「雀の涙」程度の賃上げでは、日本経済が循環しないのだ。30年前の労働分配率は、現在よりに約10%ポイントは高かったのである。

そこで、せめて生産性上昇に見合った賃上げを行なうべきだ。

実は、生産性上昇率に見合った賃上げをしていない結果、企業の内部留保(利益剰余金)は増える一方である。財務省の「法人企業統計」によれば、2020年度は過去最高の484兆円に達している。2020年、日本の名目GDPは538兆円である。何と、名目GDPの89.9%にも相当する金額が、内部留保となって眠っているのだ。

むろん、これだけの内部留保があるから、安定した雇用を確保できるというメリットを否定するものではない。大きな経済的なショックが起こっても、従業員を解雇せずに一時的な赤字で凌げる体力をつくっていることを認めなければならない。

だが、そういう「保険」のために日々、生活に苦闘している従業員を犠牲にすることは、回り回って自社の業績にも響くという「合成の誤謬」に気付くべきであろう。

Next: 日本人に刷り込まれた「物価上昇は悪」という刷り込み

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