尖閣の交渉に引きずり出して「棚上げ」か?中国政府が描く狡猾シナリオ

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中国による攻撃的な姿勢に対し、過剰に反応し「台湾有事」を煽る言説に対し、作戦面での実現可能性を検証し反論してきた軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、中国が「強気」な姿勢を見せるときには交渉したいテーマがあると解説。大きな目的を達成するために、小さな負けを厭わない軍事行動は過去にもあって、現在の尖閣周辺での行動にも表れていると指摘し、術中にはまらない対抗策を提示しています。

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プロフィール:小川和久(おがわ・かずひさ)
1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書は『フテンマ戦記』『アメリカ式 銃撃テロ対策ハンドブック』『日米同盟のリアリズム』『戦争が大嫌いな人のための正しく学ぶ安保法制』『危機管理の死角 狙われる企業、安全な企業』『日本人が知らない集団的自衛権』『中国の戦争力』『日本の「戦争力」』『日本は「国境」を守れるか』『危機と戦うテロ・災害・戦争にどう立ち向かうか』ほか多数。

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交渉したいと中国は強気に出る

これまで、台湾への中国の軍事侵攻を前提とする武力統一について、中国軍の上陸作戦を成立させる条件の欠如(輸送能力、台湾本島の上陸適地、台湾封鎖など)の面から否定的な見解を示してきました。

それとは違う角度ですが、米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官からも同様の見方が示されています。キッシンジャー氏はニクソン大統領の「密使」として極秘に訪中、米中和解を実現した立役者として知られる存在です。

「米中の国交正常化交渉に深く関わったキッシンジャー元米国務長官(98)は21日放映の米CNNテレビの番組で、中国による台湾侵攻の可能性について『台湾への全面攻撃は、おそらく10年間はないだろう』と述べた。米中関係について『対決回避という原則を持つべきだ』と訴えた。

 

キッシンジャー氏は台湾情勢について『対立が深まれば、中国が台湾の自治を弱める措置を取ることは十分に考えられる』と指摘。その中国の『措置』を軍事的と見なすか、政治的と見なすか、米国は難しい判断を迫られると強調した」(11月23日付毎日新聞)

この記事だけでは、キッシンジャー氏が根拠とする部分がはっきりしないのですが、手もとの『キッシンジャー秘録』などを眺めると、中国を戦略的に眺め、トップ交渉を行ってきた経験をもとに、中国の思考と行動の様式を把握している様子がわかります。

ひとことで言うなら、中国が攻撃的な行動を見せたときは、必ず交渉したいテーマがあり、相手を交渉のテーブルに着かせるためには、たとえ局地戦で敗北を喫しようとも、軍事力を行使する場合もあるということです。その思考と行動の様式は、朝鮮戦争、金門島砲撃、珍宝島(ダマンスキー島)事件、中越戦争などに如実に表れています。

もちろん、その思考と行動の根底にあるのは古代中国の戦略の書『孫子』であることは言をまちません。孫子の至言のうち中国が重きを置いているのは「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」であることは明らかです。戦わずに勝利、あるいは引き分けを勝ち取るためには、場合によっては局地的な負け戦も辞さないというのは、驚くべき戦略的発想です。

そこで日本の領土であり、中国が領有権を主張している尖閣諸島ですが、その中国が目指しているのは領有権問題の「事実上の棚上げ」です。

4隻編成の海警船のうち1隻しか武装せず、日本漁船についても「あおり運転」こそしても、自国の領海法に基づいて拿捕することを避けているのは、わざとそうしているからです。世界的な戦争にエスカレートする火種を内包している日米との衝突は避け、いわば「根負け」した日本を交渉に引きずり出し、「事実上の棚上げ」に持ちこもうという計算された動きと見てよいでしょう。

日本としては、そんな中国の思考と行動の様式を理解したうえで、海上保安庁の増強と海上自衛隊との連携の強化だけでなく、禁反言の法理に基づく領有権の主張、実効性のある領海法の制定、漁業協定の改定を、こちらも戦略的かつ同時進行で進める必要があるのです。それが台湾有事に対する抑止効果を高めることを忘れてはなりません。(小川和久)

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