きっかけは「鹿」。世界的エンジニアが、ドローンベンチャーを設立した理由

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「Windows95を設計した日本人」として知られ、数々のベンチャー・ビジネスに携わってきた世界的エンジニアの中島聡さんが、新たな「登るべき価値のある山」の踏破に挑み始めたようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では中島さんが、昨年設立したドローンベンチャー「netdrones」を立ち上げたきっかけや、現在に至るまでに次々と起きた「奇跡」を紹介。その上で、心躍るようなとてつもなく大きな目標を記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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ドローンベンチャーを立ち上げた理由

私がシアトルで立ち上げたドローンベンチャーに投資家からの投資が決まった話は既に書きました。その投資家と先週、昼食を食べたのですが、その時に、どうしてこの会社を立ち上げようと考えたのか、と尋ねられたので私なりに答えたのですが、今回はその話を簡単にまとめてみようと思います。

きっかけは、我が家の庭に出没する鹿です。庭の先は、人が登り降り出来ないぐらい急な崖なのですが、その先の森に鹿が住んでおり、時々、庭に来て悪さをするのです。

鹿の植物は植物の芽なので、春先になると、庭に植えてある、りんご、ブルーベリーなどの芽をことごとく食べてしまうのです。

フェンスで囲えば良いと思うかも知れませんが、鹿のジャンプ力はすごくて、1メートル半ぐらいのフェンスは楽々飛び越えてしまうのです。

そこで考えたのが、ドローンを使った「鹿(しし)おどし」です。普段はワイアレスの充電ステーションでチャージしておき、タイマーで20分おきぐらいに庭を飛ばして鹿を追い払おうというアイデアです。

飛ぶルートは毎回決まっているし、物体認識のような難しいことはしなくて良いので、簡単に実装出来るだろうと思ったのですが、全くそんなことはありませんでした。

そもそも、ドローン用の充電ステーションなど存在しないし、ドローンをコントロールするプロトコルも会社ごとにまちまちです。

ドローンをコントロールするプロトコルとしては、MavLinkというオープンなものがありますが、DJIやSkydioなどのメジャーなドローンがサポートしていないため、業界標準と呼ぶにはほど遠い状況です。

ドローンそのものをコントロールするソフトウェアとしては、PX4というオープンソースプロジェクトがありますが、これも業界標準と呼ぶには程遠い状況にあります。

そんな状況なため、MavLinkでコントロールできるPX4を搭載したドローンが必要となれば、ドローンキットを入手し、自分で組み立て、OSをインストールするという、とんでもない手間をかけなければならないことが分かりました。

さらに悪いのは、MavLink経由でドローンをコントロールするソフトウェアです。QGroundControlというオープンソースのプロジェクトがあるにはあるのですが、Windows用に書かれたかなり古いアーキテクチャのソフトウェアで、MacやLinuxに移植するぐらいなら、ゼロから書き直した方が早いようなしろものです。

この状況を知った時に、妙に懐かしい感じがしました。まるで、私がプログラミングを始めたばかりの「パソコンの黎明期」のような状況です。当時は、WindowsどころかMS-DOSもなく、それぞれのパソコンメーカーが独自のOSでパソコンもどきを作っており、使いこなせるのは、時間が無制限にあるホビイストだけでした。

そこで思ったのは、「こんな状況がいつまでも放置されて良いはずがない。PX4などのオープンソースプロジェクトには企業のスポンサーが必要だし、コントロールソフトウェアは、もっとモダンなアーキテクチャで作られているべき」という思いでした。

そこで同時に気が付いたのは、これがとんでもないチャンスだ、という事実です。

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