なぜ「焼肉きんぐ」は飛躍的成長を遂げたのか?10年で売上10倍を達成した“思考のバイアス”

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コロナ禍において飲食店が苦戦する中、ひときわ好調といえるのが焼肉業態です。中でもテーブルオーダーバイキングの「焼肉きんぐ」は飛躍的な発展を遂げ、この10年で売り上げは10倍にもなったといいます。なぜここまで焼肉きんぐは好調を維持できるのでしょうか?マーケティング&ブランディングコンサルタントとして活躍する橋本之克さんが行動経済学の観点から検証していきます。

プロフィール:橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター 兼 昭和女子大学 現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店勤務などを経て2019年に独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。

バブル崩壊後から続く「不況時には食べ放題がウケる」の法則

2022年の現在も相変わらず景気は上向きません。新型コロナウィルス(COVID-19)が落ち着く気配を見せても、程なくしてウクライナ侵攻が勃発し、企業の業績悪化や株価下落、各種商品の値上げなど景気停滞ムードが続いています。

こうした不況期には、食べ放題や飲み放題の飲食店が人気を集めます。フトコロが寂しい消費者でも、コスパの高さを楽しめるためです。

今では「食べ放題」は珍しい外食業態ではありませんが、かつてバブル崩壊後の不況下、1993年の「日経トレンディ」による年間ヒット商品の13位にランクインしました。

右肩上がり経済が終焉を迎えて企業収益は悪化し、不良債権問題や株価低迷で大手金融機関が次々と破綻するような環境でも、食べ放題は着実に人気となっていったのです。

最近では、焼肉の食べ放題チェーンの「焼肉きんぐ」が注目されています。

現在、店舗数では1位の「牛角」を追い278店舗の第2位です(2022年3月9日現在)。しかも景気低迷が続く中、親会社の物語ホールディングスの売り上げは、2011年の157億円から2021年の640億円と4倍以上に成長しています。

失われた30年と呼ばれるほどに、日本では不況が続いてきましたが、そのような環境下でも食べ放題は支持され続けてきたことになります。

食べ放題に惹かれる第一の理由はコスパの良さでしょう。

しかしながら人は、こうした合理的な判断で行動するわけではありません。行動経済学で人間心理を解釈すると、いくつか不合理な行動が見えてきます。食べ放題には、人の判断を狂わせる力があるのです。

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お腹を空かせて食べ放題に行くと何が起きるか?

不合理な行動の典型例は「食べ過ぎ」「注文し過ぎ」です。

食べ放題に行く時には、たくさん食べることを想定して、お腹を空かせていこうと考える人もいるのではないでしょうか。空腹で店に入った時点から、心理的なバイアスが働き始めます。現在の状態、感情や好みが、将来も変化しないと思ってしまう「投影バイアス」です。

食べ放題のメニューが複数あるならば、冷静に考えればいろいろな種類を少しずつ頼めば良いはずです。

ところが空腹感が延々続くかもしれないという心理が、無意識の中で生まれます。この心理が命ずるままに一気に注文して、偏ったメニューばかり食べてしまい、早々にお腹いっぱいになってしまうといったことが起きます。

この「投影バイアス」は、この他にも日常生活で働くことがあります。典型例はスーパーでの買い物です。

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お腹が空いた状態で食料品売り場に行って、買い過ぎてしまったことはありませんか?必要な食料だけを買って帰り食事をすればお腹は満たされるはずなのに、食品売り場にいる時点での空腹感を強く感じすぎ、買い過ぎてしまうのです。

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