日々文章を書いていて悩ましいのが「、」読点、いわゆるテンの位置です。位置だけでなく、テンを打つか打たないかという問題もあります。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では、著者で朝日新聞の校閲センター長を務めていた前田安正さんが、打つ場所によって意味がまったく変わってしまったり、意味合いが微妙に変わったりして悩ましいテン(読点)の働きや使い方について、具体例をあげ比較しながらわかりやすく教えてくれます。
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テンは小粒でぴりりと…
ここではきものを脱いでください。
テン(読点)をどこに打つかによって、意味が変わる例に用いられる文です。
1)ここで、はきもの(履き物)を脱いでください。
2)ここでは、きもの(着物)を脱いでください。
読点を打つ位置で、脱ぐものが「履き物」と「着物」に分かれるというのです。ところが初めから漢字を使えば、読点の問題はなくなります。
1-2)ここで履き物を脱いでください。
2-2)ここでは着物を脱いでください。
文も短いし、読点がなければ誤読を招くという要素もないので、1-2と2-2のように読点を入れる必要はないのです。
「ここで」は、「ここ」という場所を示す指示代名詞に、動作・作用の行われる場所を示す格助詞「で」がついたものです。「ここでは」は、「ここ+で」に、意味や語勢(語調)を強める副助詞「は」を重ねてつけたものです。つまり「ここで」よりも「ここでは」の方が、場所を強調しているということになります。
テンのあるなしで、何が変わる?
視点を変えて、読点がある場合とない場合では何が変わるのかを見ていきたいと思います。
ここで、履き物を脱いでください。
ここで履き物を脱いでください。
ここでは、着物を脱いでください。
ここでは着物を脱いでください。
読点のあるなしを比較すると、読点を使うことによって、「ここで」と「ここでは」という場所を表す語句がさらに強調されています。
字を追って読んでいく際に、読点を打ったところで若干、間が空きます。話しことばでも重要なことばを伝えるときは、そのことばの後に間を取ります。文章の中では、読点に間を取る役割があります。この「間」によって直前の語句が強調されるのです。
3)僕は公園でジョギングをした。
これを
3-2)僕は、公園でジョギングをした。
3-3)僕は公園で、ジョギングをした。
とすると、3-2はジョギングをした「主体=僕」を強調し、明確にしています。3-3は「場所=公園」を強調していることがわかると思います。つまり、
読点は前の語句を強調する役割がある
のです。
日付の後にあるテンの意味
新聞のストレートニュースでも、
ロシアは25日、ウクライナの南東部マリウポリを~
のような書き方をします。本来なら
ロシアは、25日、ウクライナの南東部マリウポリを~
などとすべきところです。「ロシアは25日」という書き方は「リンゴは果物」と同じ構造をしています。ところが「リンゴ=果物」と解釈することはあっても「ロシア=25日」と解釈する人はいないと思います。これは新聞独特の書き方になじんでいるからです。
新聞などでは、事件などの発生主体(主語)と日時が、重要な意味を持ちます。そのため本来は
25日、ロシアはウクライナの南東部マリウポリを~
と書けばいいのです。ところが、発生主体をまず示し、次に日時「25日」をつなげるという書き方が定着しています。これは情報の重要性を考慮した結果だと思います。その結果、独特の読点の位置が生み出されたのです。
読点の打ち方がわからない、という声をよく聞きます。何げなく使っている読点にも、それなりの意味があるはずです。次回も読点の働きについて、考えていきたいと思います。
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