塞げぬプーチンの“抜け穴”。露呈した「欧米主導の対ロシア制裁」の限界

2022.05.10
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欧米が主導し、アジアからも日本や台湾、韓国が参加する対露経済制裁。「返り血」覚悟で厳しい姿勢をもって臨む各国ですが、その効果は期待できるものなのでしょうか。今回、「早くも制裁の限界が露呈してきた」と指摘するのは、国際政治を熟知するアッズーリ氏。外務省や国連機関とも繋がりを持つアッズーリ氏は記事中、対露制裁参加国が限定的であり、ロシアに多くの抜け道が存在する理由を詳細に解説しています。

限界が露呈する欧米主導の対ロシア制裁

ロシアによるウクライナ侵攻から2ヶ月が過ぎるなか、戦況は悪化の一途を辿っており、欧米主導の対露経済制裁も第1段、第2段という形でますます強化されている。モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア各都市ではマクドナルドやアディダス、アップルやスターバックス、BMWやIKEAなど世界的な欧米企業が相次いで営業停止、撤退し、今後も再開する目途は立っていない。モスクワの市長は4月18日、ウクライナ侵攻で欧米を中心にロシアへの経済制裁が強化される中、雇用支援策を打ち出しているものの機能せず、今後モスクワ市内の外国企業で働く20万人あまりが失業する恐れがあると警戒感を示した。

また、我が国日本も欧米と共同歩調を取り、ロシアへの経済制裁を強化している。それによって日露関係は冷戦後最悪にまで冷え込み、ロシアも在モスクワ日本大使館の職員たちを国外追放にするなど今後さらなる対抗措置が予想され、日本企業の脱ロシアを巡る動きも活発化している。帝国データバンクが4月に発表した企業調査結果(全国2万4,561社対象で有効回答が1万1,765社)によると、ウクライナ情勢について、「既にマイナスの影響がある」と回答した企業が全体の21.9%を占め、「今後マイナスの影響がある」が28.3%、「影響はない」が28.1%、「分からない」が20.7%、「プラスの影響がある」が0.9%と全体の半数近くで懸念する声が聞かれる結果となった。また、ジェトロが3月末に発表した企業統計(ロシアに進出する企業211社のうち回答した97社が対象)によると、今後半年から1年後の見通しとして、「ロシアからの撤退」との回答が6%に上り、「縮小」が38%、「分からない」が29%、「現状維持」が25%、「拡大」が2%と半数近くの企業がロシア離反の動きを示した。ジェトロは2月24日の侵攻前にも同じ調査を実施したが、その時「縮小」と回答した企業が17%だったので、日本企業のロシア離反は急速に拡大している状況だ。

しかし、ここに来て欧米主導の対露制裁の限界が見え隠れする。それを臭わせる動きはいくつかあるのだが、まずは中国の動きだ。この2ヶ月、中国は侵攻したロシアを批判したことはなく、むしろロシアを孤立化させるべきではないとして経済的にロシアに接近する姿勢を鮮明にしている。中国が米国に国力でますます拮抗するなか、米中のパワーバランスの変化はプーチン大統領にとって極めて都合がいい。

また、今後世界の主要経済大国になるインドは長年ロシア製の武器に頼っており、両国関係は極めて有効だ。インドも国連対露批判決議では棄権に回るなどロシア非難を避け、むしろ欧米がロシア産原油や天然ガスの輸入を制限するなか、エネルギー分野でのロシア依存を深めている。バイデン大統領もインドのこういった姿勢を名指しで非難し、今後の日米豪印クアッドの一体性にも疑問符が生じつつある。5月には日本でクアッド首脳会合が開催されるが、対ロシアでクアッドが一致団結した姿勢を打ち出せない可能性もあろう。

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