プーチン大誤算。ウクライナ侵攻を想定外の泥沼化に陥らせた「3つの事実」

shutterstock_1630098760
 

既に開始から3ヶ月が経とうとしている、ロシアによるウクライナ侵攻。短期決戦での勝利を目論んでいたとされるプーチン大統領ですが、2月に投入した地上戦力の3分の1を失ったという情報も伝えられるなど、想定外の苦戦が続いています。何がこのような事態を招いてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、プーチン大統領が軍事作戦以前に犯していた失敗と、見誤っていた3つの事実を解説。さらにこの戦争の出口を見えなくしている「真犯人」について、独自の考察を記しています。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年5月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

泥沼のウクライナ戦争に出口はあるのか?/プーチンとバイデンそれぞれの誤算の重なり合い

ウクライナ戦争は完全に泥沼状態に陥り、当事者同士はもちろん、周りの誰も、落とし所を見出して停戦に導くことができずにいる。このままでは徒に戦闘が長期化し、無駄な殺戮が繰り返されていくことになりかねない。

事前の「情報戦」で失敗していたプーチン

推測するに、プーチン露大統領は当初、ドンバス地方のロシア系住民をキエフ側による虐殺から救済し、ドネツクとルガンスクの2つの共和国のウクライナからの独立を確保するという限定された目標のための作戦を考えていて、それを2月24日の演説(本誌No.1143《資料2》)で「特別な軍事作戦」と呼んでいたのだろう。演説で彼が「その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ」「ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない」と述べていることがそれを裏付ける。

しかし、軍事戦以前に情報戦の失敗があって、第1に、ここで彼は「8年間」としか言っていないが、それが2014年9月に合意された「ミンスク停戦議定書」(およびその破綻後に仏独が仲介して15年2月に成った同「議定書2」)をキエフ政府が実行するのをロシアは8年間も我慢強く待ったのだ!という意味であることを、国際社会はほとんど知らない。

第2に、何をどう待ったのかと言うと、2014年2月に親欧米派の武装クーデターで親露派の大統領が追われた直後、プーチンはクリミアとその突端セバストーポリの軍港を確保するため電撃的な作戦を実施、ウクライナ国内の自治共和国だったクリミアと同じく特別市だったセバストーポリで住民投票に基づく独立宣言を出させるという手続きを経てロシアに併合した。同じ時期、ドネツク・ルガンスク両州でも多数を占めるロシア系住民を背景に親露派勢力が同様の手続きでロシアに編入されることを要望したが、プーチンはそれを認めず、その代わりにウクライナ国内で高度の自治権を持つ自治共和国の地位を保障するようキエフに求めたミンスク議定書の路線を敷いた。プーチンが両州の自治が尊重されることをあくまで希望し続けたという事実を、国際社会はほとんど知らない。

第3に、その間に、プーチンが主張するように、両州のロシア系住民に対してキエフ側からも「ジェノサイドにさらされてきた」のだとすれば、両州とロシアはそのこと自体を事実を以て広く世界にアピールし、国連、OSCE、国際人権団体等を通じて解決を図るべきだったろうが、そうした努力は何ら行われた気配がない。

このため、「軍事作戦に訴えたくないので8年間も我慢したんだ」というプーチンの思いは世界のほとんど理解するところとならなかった。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • プーチン大誤算。ウクライナ侵攻を想定外の泥沼化に陥らせた「3つの事実」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け