北欧2国がNATO加盟へ。巧みな戦略でウクライナ戦争の勝者に躍り出たトルコ

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北欧のフィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟が実現する見通しとなりました。両国のNATO加盟に反対していたトルコが一転して支持を表明。トルコが提示していた要求をフィンランドとスウェーデンが応じた形となったようです。上手に立ち回った印象が強いトルコ。そこで今回は、大きな意味を持つことになったクルド人問題について解説していきます。

クルド人に関して

クルド人というのは、中東のトルコからシリア、イラク、イランにまたがった、山岳地帯に住むイラン系の民族のことを言います。

ご想像の通り、政治的には非常に不安定な地域で、人口は推定3000万人と言われながら、これ実はサウジアラビアと同じ規模ですが、同時に「国を持たない最大の民族」と言われています。

こうなった理由は、100年前の西欧の都合に端を発していて、1916年、第一次世界大戦末期に、当時の強国だったイギリスとフランスとロシアが、敗北国であるオスマン帝国をどう分割するか、という協定を結びました。

これはサイクス・ピコ協定と呼ばれていますが、これは当時の2大植民地大国であるイギリスとフランスが、戦後の自分達の権益を確保するために勝手に決めたもので、この時クルド人が無視され、クルド人が住むエリアの真ん中に線を引きました。

その後、列強の都合で、トルコの国境を決め、そしてイラクやシリア、ヨルダンなどの国を誕生させていったのですが、クルド人は最初の線引きが尾を引いたことと、トルコが必死に領土分割を防いだこともあり、民族として国を持てず、結局クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランという4か国にそれぞれ分割されるという、日本人には想像できない不幸な形となりました。

その後、それぞれの国で、少数民族として扱われながら、独裁者や強権政権、過去はサダムフセインのイラクや、シリアのアサド政権、そして今はエルドアン大統領のトルコなどに対して分離や独立を求めていきます。

しかし、それぞれの国は自国の領土分割に繋がる話を認めませんし、一方でこのエリアには、今でも数億バレルの石油が埋蔵されると言われている大権益の眠るエリアのため、一部のイラク領土内にあるクルド人自治区を除けば、まだまだ独立には長い道のりが続くと見られています。

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トルコとクルド人

ここでトルコですが、トルコには最も多くのクルド人が住んでいて、その数は1500万人と言われています。これ人口比率でいうと20%近い割合ですが、トルコでは山岳トルコ人と呼ばれてクルド人としては認められず、しかもクルド人の若者の失業率も3人に2人だといい、社会問題としても大きいものとなっています。

そして今国際的に起こっている問題は、このトルコに住むクルド人の一部が1980年前後から過激武装化して、トルコ内でテロを含む武力闘争をしており、累計で4万人もの死者が出ている状況となっています。

彼らはクルド労働者党(PKK)と呼ばれている組織で、アメリカやEU、そして日本も、このPKKをテロ組織として指定しています。

エルドアン大統領としては、当然PKKを掃討すると言うことで、極端に言えば内戦状態となっており、PKKが逃げ込んでいるイラク北部に対し越境攻撃を加えている状況にあります。

実は今、この攻撃が激しさを増していて、5月には1年ぶりにトルコ軍の地上部隊をイラク北部に投入しました。これはれっきとした軍事行動ですが前回も述べた通り、エルドアン大統領としては国内のテロ組織を壊滅することによる「国民を守る強い大統領」というアピールもあると思います。

そして、北欧2か国のNATO加盟反対の理由が、このPKKと近い「クルド人民防衛隊」YPGと呼ばれる組織をスウェーデンが支持しているのでは、ということがエルドアン大統領の反対の口実ともなっています。

ここはロシアに恩を売り、国内支持へのアピールという政治的な部分が大きいと前回述べましたが、ただ、このYPGはIS、イスラム国掃討作戦の際に、アメリカもずっと支援してきた組織です。

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次回、アメリカのこれまでのこのエリアに対する大きな関与とその失敗の歴史について説明をしたいと思います。

出典:メルマガ【今アメリカで起こっている話題を紹介】欧米ビジネス政治経済研究所

image by : Drop of Lightshutterstock

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