中国軍は米国のペロシ下院議長が台湾を訪問して以降、戦闘機で領空侵犯を繰り返すなど、台湾に対する挑発を強めている。これは、台湾侵攻を目的とした戦闘準備なのか、単なる嫌がらせなのか?中国が本気で台湾有事を起こす場合のシグナルについて、米国シンクタンクのリポートを紹介する。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
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台湾有事が起こり得る3つの理由
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実は9月の最終週あたりからだが、「年内にも台湾有事が起こり得る」とする見方が複数の軍事専門家の間でささやかれていた。
その代表的な人物は、政治学者のロバート・エルドリッジだ。エルドリッジは日本駐留の米海兵隊の参謀次長だった人物だ。
彼は次の3つの理由で、今年の11月から来年1月にかけて、台湾有事が起こる可能性が高いとしていた。
<理由その1:在庫の減少と兵器不足>
ウクライナを支援するために、すでにアメリカは21回の大規模な武器支援を行っている。このため、すでに多くの分野の兵器の在庫が減少しており、それが米海軍にも影響を及ぼしている。
<理由その2:アメリカの中間選挙>
いまバイデン政権の支持率が少し回復しているが、それでも11月の中間選挙は、左右の衝突による混乱を引き起こすだろう。アメリカは国内問題に集中さぜるを得なくなっている。
<理由その3:バイデン大統領の認知症>
バイデン大統領は明らかに認知症である。アメリカの大統領は、軍の最高司令官である。認知症の人物が最高司令官であると、台湾有事のような緊急事態への対応は遅れる可能性がある。
いま中国の経済は厳しい状況にある。エルドリッジによると、10月に3期目が確定する習近平政権は、歴史的な成果を誇る必要から、上記のような有利な条件がそろう時期を好機と見て、台湾に侵攻する可能性があるのではないかとしている。このような早い時期に台湾有事が起こるとする見解は、エルドリッジだけではなく、他の複数の軍事専門家が述べていた。
CIAシンクタンクの予測は「台湾有事はない」
このような情報を得ていたので、筆者はこうした可能性が本当にあるのかどうか徹底してリサーチすることにした。
しかし実際に調べて見ると、エルドリッジを始めとした台湾有事の早期の可能性を主張する見解は、かなりの少数派であることは分かった。ほとんどのシンクタンクや軍事専門家は、それとは反対の見解だった。
主流の見解を象徴しているのが、CIAを最大のクライアントに持つ安全保障系シンクタンク、「ストラトフォー」の予測だ。「ストラトフォー」は恒例の四半期予測を発表した。そのなかに台湾に関しては次のようにある。
「台湾の緊張は続くが、エスカレートする可能性は低い。欧米の政治家の台湾訪問は今後も続くだろうが、それが目立たない限り、中国の報復は緩やかなものにとどまるだろう。欧米の立法府代表団や政府関係者が、今期も台北を訪問するため、中国は台湾海峡の中間線を越えて航空・海軍が侵入し、台湾の海岸を定期的に監視することで対応することになるだろう。しかし、北京が貿易戦争や台湾への侵攻で報復することはないだろう」
そして、安全保障系のシンクタンク、「CSIS」も同じような調査結果を出している。中国の台湾侵攻計画についての見解を知るために、64人のアジア太平洋専門の主要アナリストを対象に世論調査を行った。すると、圧倒的多数の人が、北京は統一を待つつもりであると答えた。これはアメリカの専門家が、北京が台湾に対して直ちに行動を起こす準備をしているとは考えていないことを示している。
おそらく、これがもっとも現実的な予測であろう。エルドリッジのような分析者が主張する早期の台湾有事は起こらないと見てよいようだ。
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