多くの人たちは、まだAIが生み出す表現物の価値を評価できていない。芸術作品、それも人を感動させる作品というのは、人間だけが生み出すものであり、それは「人間にしかできない領域」だと思っている。しかし、もうその認識は改めなければならない時代がやってきている。(『 鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編 鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編 』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
人工知能は着々とクリエーターの分野を侵していく
AdobeのソフトウェアではAIが表現物を変えるために使われており、たとえば写真の中から不要なものを消したり、必要な部分を切り抜いたり、白黒の写真に色を付けるような機能がAIで提供されている。空だけを変えたり、都会を緑で覆ったりする変化もAIで簡単にできる。
しかし、2022年に急激に広がっていった「画像生成AI」は、そうした写真加工とはまったく別のものだった。
「Midjourney」「DALL・E2」「Stable Diffusion」「NovelAI Diffusion」……。これらの「画像生成AI」は、それを使うユーザーもそうだが、デザイナーやイラストレーターやマンガ家など、「絵」を職業にしている人々に大きな衝撃を与えた。
これらのソフトウェアは「生成ワード」と呼ばれる文字を入れるだけで、AIが自動的にそのワードに即した絵を描いて高品質の絵や写真などを表示してくれるのだった。文字を与えるだけで、いくらでも絵を描いてくれるのである。
すでに画像生成AIを使って絵画コンテストに出したら優勝してしまったり、これを使ってマンガを描いたりして、大きな社会的旋風を引き起こしている。
AIがいよいよクリエーターの領域に入り込んできたという実感を思い起こさせる。
AIが「小説」まで書き始める
Googleも人工知能の研究開発を続けているのだが、今後はAIで小説が書けるように「本気」で取り組む気配がある。短い文章から小説を生み出したり、動画から小説を生み出したりできるようにするようだ。
Googleのことだから、かなり実用的な作品が生み出せるような環境を用意する可能性もある。文章が書けない人が動画などから質の高い小説を生み出せるようになったら、世の中の小説家はショックを受けるだろう。
「人工知能が小説なんか書けるはずがない」とか言っていると、一瞬で世の中ひっくり返って呆然とするかもしれない。
人工知能は着々とクリエーターの分野を侵して大量生産していく。
記事は「コンピュータで作られる大量生産品」になった
私自身は、AIが巧みな小説を書くようになるのは時間の問題であると思っている。というのも、小説ではなく「記事」という括りで言えば、企業はすでにAIによって書かれた記事を実用的に使っている。
株価の動き、企業の決算サマリー、スポーツの勝敗、天気予報などの、決まった形式でデータが毎日違うルーチン的なタイプの記事はAIに任せる方が正確で早かったりするのだ。
AP通信はオートメイテッド・インサイト社の「ワードスミス(Wordsmith)」というソフトを導入しているのだが、このソフトは、3ヶ月に4,300本もの記事を作成していると報告されている。
ワシントンポストは「ヘリオグラフ(Heliograf)」という自社開発の人工知能を使って、年間850本の記事を量産し、知事選やスポーツの試合結果などをツイッターにアップするボットも人工知能に任せるようになっている。
ブルームバーグでは「サイボーグ(Cyborg)」と呼ばれる記事が財務諸表を分析して、ニュース記事を大量生産している。ロイターはもっと進んでいて、ツイッターからニュースを「発見」して、それを元に記事を自動作成するシステムを備えている。
日本では、日経新聞が企業発表の要約記事を人工知能が作成する「AI記者」を使っているはずだ。「業績」「要因」「見通し」に分けて、前年比との分析をも述べられた記事を10秒足らずで制作する。
日経ではさらにその記事をウェブにアップするところまで自動化している。記事は完全に自動で「大量生産」されるようになってきているのである。AIによる記事の「自動化」は、もしかしたら独自の考察記事や掘り下げ記事にも使われているのかもしれない。
AIによる記事作成の効率は人間の10倍や20倍どころではない。昨日、あなたがスマートフォンで読んだ記事のいくつかは、あなたが気が付かないうちにコンピュータが自動作成したものもあったはずだ。記事は「コンピュータで作られる大量生産品」になったのである。
とすれば、それが小説などの「文芸・娯楽」の分野にまで広がっても当然だ。むしろ、数年のうちにそういうツールが出てこない方が逆に驚きだ。小説などは機械で大量生産されるものと化すのである。