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なぜか相次ぐ「風呂なし物件人気」報道に広がる違和感。クルマ離れや恋愛離れと同様、若者の貧困を「流行」で片付ける末期的な日本社会

最近、若者の間で“風呂なし物件”が人気……そんな報道がここに来て相次いでなされ、SNS上ではその是非を巡ってちょっとした論争が起きているようだ。

先日17日配信のテレビ朝日によるニュース記事では、都内で介護の仕事をしているという風呂なし物件住まいの26歳男性が紹介され、練馬駅まで徒歩10分で6畳1間にキッチンが付いた部屋は家賃3万2,000円と、周辺の風呂あり物件と比べると半額程度だという。

さらに、23歳女性が住む田端駅まで徒歩18分という立地の風呂なし物件は、6畳の和室にキッチンが付いて家賃3万3,000円とこちらも格安で、おかげで貯蓄や趣味に多くのお金を回せるようになったと語る。

風呂なし物件を集めた不動産サイトを運営する人物の話によれば、好奇心から風呂なし物件を選ぶ若者が増えているとのことで、「経済的に大変だから、風呂なししか選べない人は、ほとんどいない」ということである。

“風呂なし物件人気”報道に隠された意図とは?

“風呂なし物件が若者の間で人気”といった報道は、上記のテレビ朝日によるものだけでなく、昨年12月には日本経済新聞も「風呂なし物件、若者捉える」といったタイトルで配信。若者の間でライフスタイルが多様化するなかで、風呂なし物件でのシンプルな暮らしを志向する者も増えて来ているといった、いわば好意的に捉えるノリの論調だ。

しかしながら、この日経の記事が出た際には、SNS上で「風呂なし物件が流行っているのではなく、貧困が広がっているのでは?」といったツッコミが殺到する事態に。その余韻がまだ残っている最中での、今回のテレ朝による報道だったのだが、それに対しても「風呂なし物件で家賃を抑えないと貯蓄や趣味に金も回せないということだろう」などと、否定的な意見が再び多く寄せられる格好となっている。

また、この手の報道が立て続けになされるのには何か裏があるのでは……ということで、代理店やPR会社による何らかの“仕掛け”説から、果ては若者の貧困をオブラートに包むための“印象操作”“御用特集”ではないかという話まで、様々な憶測が取沙汰されているところだ。

しかしながら風呂なし物件でのシンプルライフは、近年日本国内でも流行っているミニマリスト的な考えとも親和性が高く、また毎日銭湯に通ったとしても、銭湯代1日500円×30日でおよそ1万5,000円の出費で清潔を保てるうえに、面倒な風呂掃除から解放されるなど、そのメリットを訴える声も少なからず存在するところ。

ただ、それ以上に多いのが「この手の話を真に受けてはいけない」といった声。具体的には外出せずとも清潔が保て、炊事場では避けたい物の洗濯ができるといった風呂あり物件に対し、銭湯通いだとその客層に快適度が左右されるうえに、24時間好きな時に利用できないなどの難点があるなど、風呂なし物件での生活には思わぬデメリットが潜んでいるという声は多い。

さらに風呂なし物件生活者にとっては生命線となる銭湯の軒数も、1960年代後半には全国で1万8,000軒近くあったのが、今や1,800軒前後まで減少。東京都内における公衆浴場数の推移をみても、2012年には741軒だったのが2022年12月末には462軒と、ここ10年でも大幅に数を減らしており、さらに近々では燃料価格高騰による影響で、廃業のペースがさらに加速するのではといった見方も出てきているという。

つい先日には、函館市のとある銭湯が廃業寸前といった状況となり、それにより近隣の風呂なしの市営住宅に住む630世帯が“風呂困難者”危機に瀕している……といった報道もあったばかり。様々な理由で都内で風呂なし物件を選択した人たちも、今後もしかするとそういった事態に陥る可能性も無きにしもあらず、といったところのようである

若者の貧困を放置すれば少子化がより加速する

若者のライフスタイルに関していえば、以前にも“クルマ離れ”や“恋愛離れ”などといった話が、メディアでしきりに取り上げられたことがあったわけだが、今回の“風呂なし物件人気”の話も、いうなれば若者の貧困に端を発するような現象を、タダの流行や価値観などで片付けようとしている点で、その流れに連なるものであるのは明白……といった見方も多くなされているところ。

そのなかでも、以前からの“恋愛離れ”にくわえ今回の“風呂なし物件人気”といった話に関しては、それらを真に受ける人間が増えることで、最終的に行き着くのはさらなる少子化ではないかと危惧する声も少なくない。

要は、住宅における最低限の設備となって久しい内風呂まで省いてしまうような思考の持ち主が、将来的に結婚をしたうえに子どもまでもうけるとは到底考えにくく、さらに下世話なことを言えば、風呂なしの部屋に彼女や彼氏は連れ込んでナニはできないのでは……といった話なのだが、あながち見当違いだともいえなくもないところだろう。

Next: 「若者の○○離れ」という世論操作は…

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