「反スパイ法」施行の中国で日本人の拘束・逮捕が減っている現実。なぜ法律を今になって整えたのか?

Hong,Kong,,China,-,April,26,,2022:,City,Street,View
 

日本の原発「処理水」に猛抗議を続けているお隣・中国ですが、今年7月から「反スパイ法」が施行されたことで、在中日本人の不安はますます募っているようです。しかし、そんな中国において、日本人の拘束・逮捕のピークは2015年だったという事実をご存知でしょうか? 今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、「反スパイ法」について日本人は「考えすぎ」だと一蹴。中国が公表したイタリアと日本の「スパイ摘発事例」を2つ挙げています。

反スパイ法で見えてきた中国が狙う一番のターゲット

福島第一原子力発電所に溜まった処理水の排出が24日午後1時ごろに始まった。日本側は12年間の懸案に道筋がついたと胸をなでおろしたが、この問題で日本に再考を求め続けてきた中国は即座に反応。中国税関総署は日本を原産地とする水産物の全面禁輸を発表し、対決姿勢を鮮明にした。

北京に来てみて分かったことは、中国の人々の処理水排出への嫌悪が日本で報じられている以上に強いことだ。普段は日本贔屓の友人でさえ「なんでそんな愚かなことをするのか」と眉を顰める。北京の日本大使館も、「大声で日本語を話さないように」と中国に暮らす日本人に注意を呼びかけた。

だが、このメッセージに鼻白んだ在華日本人は少なくなかったという。

「こんな時だけ気を使われてもねえ。拘束されたって何もしてくれないのに」

と不満を口にするのはメーカーに勤務する30代の男性だ。

「中国の人々は処理水の問題に本当に怒ってますが、街中で日本語を聞いてすぐに何かされるという恐怖を感じることはありません。それよりも怖いのは拘束や逮捕。日本人が気にしているのは、むしろそっちです」

日本人を見る目が厳しくなって中国で、ひょんなことからスパイ扱いされてしまうのではないかということだ。

法律が恣意的に運用されるとまでは言わないものの、日中関係の悪化が厳しい取り締まりの空気を作り出すと考えるのは自然だ。

こうしたことへの懸念は、中国で仕事をしている日本人に限らず高い。

日本人が拘束されるケースで、その根拠となる主な法律は「国家安全法」と「反スパイ法」だ。とくに2023年7月の「反スパイ法」の実施から、メディアが過剰反応したため観光旅行を計画する者まで強い警戒感を持つようになったが、これは考え過ぎだ。

まず「国家安全法」も「反スパイ法」も中国だけにある法律でもなければ、スパイの取り締まり自体も世界各国で行われている。アメリカには「スパイ防止法」があり、スパイ天国とまで呼ばれた日本でさえ、いまは「特定秘密保護法」がある。

ちなみに中国の「反スパイ法」はアメリカの「スパイ防止法」を参考にしたものだ。

中国で法律違反になるような行為は、たとえ西側の国であっても何らかの法律に触れる可能性があるし、中国がこうした法律を改正・制定する以前には取り締まられてなかったかといえば、むしろ逆だ

日本の拘束・逮捕が最も多かったのは2015年からの数年間で、当時と比較すればここ数年はむしろ減っているといえるのだ。

つまり、普通に生活するのであれば、あまり特別なことだと考える必要はない。

だが、中国がなぜこの時期にわざわざ法律を整えてきたのか、という動機の点については理解しておくべきだろう。

象徴的なのは、8月に中国当局が公表した二つのスパイ摘発ケースだ。一つはイタリア、一つは日本が関係している。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 「反スパイ法」施行の中国で日本人の拘束・逮捕が減っている現実。なぜ法律を今になって整えたのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け