格付け機関のフィッチがアメリカの銀行に対して格下げを通知したことがアメリカのCNBCで放送され、これによりアメリカの銀行株や株式市場に暗雲が漂っています。なぜフィッチは格下げを行ったのでしょうか?格付け機関の役割と、銀行と経済危機の関係を考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
「格付け機関」とは?
大手格付け機関であるフィッチは、JPモルガンなど世界的に有名な銀行を含む70行超のアメリカの銀行に格下げを示唆し、これがアメリカの銀行の株価に影響を及ぼしています。
同じ格付け機関であるムーディーズも中堅や中小銀行に対して格下げを行いました。
好調だった株式市場に冷水を浴びせる状況となっています。
投資家としては「余計なことはしないでほしい」と思うかもしれませんが、格付け機関は銀行だけでなく経済企業体の安全性を評価しており、この警鐘には注意を払うべきだと思います。
2008年のリーマン・ショックの際も格付けの問題が関連しています。
当時、アメリカの住宅ローン(サブプライムローン)の安全性を過大評価し、それを信じた金融機関がこれらのローンを抱えましたが、実際には安全でないと判明し、経済危機を引き起こしました。
しかし、今回の格下げは逆の状況で、銀行のリスクを警告しているという点で異なります。
なぜ今銀行の格下げが行われたかというと、アメリカの地方銀行が2023年の3月から5月に相次いで破綻したことが端緒となっています。
SVB(シリコンバレーバンク)、シグネチャーバンク、ファースト・リパブリック・バンクの3行です。
金融政策の変化、具体的には金融引き締めが影響を与えた可能性が高いとされています。
また、銀行の財務が悪化していることもあるでしょう。
格付け機関の中でもフィッチは欧州系であり、米国系のムーディーズやS&Pに比べて独立的な立場であることからアメリカの銀行の格下げを実行できたという面もあります。
実際にフィッチは米国債の格下げも行いました。
この格付けの背景には、銀行の財務状況や格付け機関の特性があったのです。
日本でも、主に日本の企業や自治体を対象に格付けを行っている機関があります。
格付け投資情報センター(R&I)や日本格付け研究所(JCR)などです。
格付け機関ではありますが、日本の格付け機関は、アメリカ系など外国系の格付け機関に比べて高めの格付けをつけることが多いので注意が必要です。
格付け機関の格付けの表示については、細かい違いはありますが基本的には共通しています。
- AAA:最も安全な格付けで、信用力が非常に高い
- AA:高い信用力を持つが、ややリスクがある
- A:信用力は高いが、リスクがわずかに高まる
- BBB:信用力が比較的高いが、リスクが増加
- BB:信用力がやや低下し、リスクが高い
- B:信用力が低く、リスクが高い
- C:債務不履行の可能性が高まり(一部で債務不履行発生)、非常に高いリスク
- D:デフォルト(債務不履行)
特に重要なのは、BBBとBBの間に存在する壁です。
BBB以上の格付けを持つ債券は一般的に「投資適格」であり、機関投資家が購入できるとみなします。
一方、BB以下の債券は「投資不適格」と見なされ(ジャンク債)、取引の際の金利が高くなってしまいます。
BBBとBBの差は非常に大きいものとなります。
今回の格下げは元々の格付けが高い大手銀行にとってはまだ致命的な影響は少ないかもしれませんが、中堅および中小企業にとっては、格付けの低下が資金調達に悪影響を及ぼし、経営に影響を及ぼす可能性が高まります。
したがって、今回の格付けの格下げは特に小規模な地方銀行などにとって深刻な問題となる可能性があると言えます。