大手損害保険の東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの業績が好調です。3社のうち2社が通期決算を上方修正し、株価も上昇。しかし、損害保険業界にはビッグモーター不正とカルテル(3社が事前に相談し、特定の顧客の保険料を割高に設定する行為)というリスクも存在しています。今回は決算をわかりやすく解説することに加え、これらリスクを踏まえてあなたが投資するべきか?すでに保有している場合は、損保業界にどのような注意点があるのか?を考えていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
損害保険はストック収入であり業績が安定しやすい
まずは、損害保険の大きな特徴を解説します。
あなたは損害保険に加入していますか?
もし加入されているのであれば、保険期間を決めて、定期的に保険料を支払っているでしょう。この保険料が損保会社にとっては、定期的な収入となり、正味収入保険料・収入積立保険料という名前での収入源となります。
そこから支払った保険金を差し引いたものが、損保会社の利益となります。したがって、損害保険会社は大規模な災害がなければ、定期的な収入源を保有する安定的な業種です。
この収益源があるからこそ、積極的な株主還元など、配当にも魅力があります。
それを踏まえて、損保各社が現状を確認してみましょう。
海外保険が好調「東京海上」
東京海上の決算は、悪い点もあるが全体としては好調、という評価です。
24年3月期の通期経常利益を2%上乗せの上方修正を行いました。
24年第2四半期は増収増益の決算です。()は対前年比増減率
経常収益 3兆7,441億円(+10.9%) 経常利益 2,759億円(+126.8%)
経常利益が倍増しているのは、昨年はコロナ保険金や自然災害の影響によって大幅に利益が落ち込んだためです。
まず悪い点ですが、国内保険は不調です。
年間で1,600億円の利益を稼ぐ予定ですが、第2四半期はわずか294億円(進捗18.3%)しか稼いでいません。その要因は、自動車事故の増加による自動車保険の収益悪化・円安による外貨建て保険の収益性悪化などです。
国内保険は売上は増えているのですが、保険金支払いが増加し、利益が伸び悩んでいます。
しかし、海外保険は好調です。年間3,760億円の利益目標に対し、すでに2,020億円(為替除いた進捗49.0%)の利益を稼いでいます。その要因は金利上昇に伴う債権利息収入の増加・海外主要子会社であるDFGの企業向け保険の収益拡大です。
出典:24年第2四半期 決算説明資料
この、悪影響と好影響を相互に打ち消し合うことで、通期利益が2%の上方修正、さらに発行済み株式の2%の自社株買いを発表しました。
国内市場が悪化しなければ…と思いますが、海外展開の恩恵を受けています。国内損害保険の最大手として、磐石の業績基盤であると考えます。
国内で苦戦「MS&AD」
好調な東京海上に対し、MS&ADはやや苦戦しています。
今期、通期経常利益を5%下方修正しました。第2四半期は増収増益の決算です。
経常収益 3兆6,285億円(+10.9%) 経常利益 1,314億円(126.8%)
出典:24年第2四半期 決算説明資料
修正利益(自社算定の利益)の進捗は40%です。一見悪くないように感じますが、例年2Qの進捗は60%前後であることから、あまり良い状況ではありません。
苦戦している理由は、国内自然災害による保険料増加、自動車保険の事故頻度の増加などです。さらに、海外保険ではハワイ山火事の影響など、自然災害の影響を受けています。
そもそも、MS&ADは海外保険の比率が高くありません。東京海上の海外保険の割合は45%であるのに対し、MS&ADは20%です。したがって、円安など海外保険の恩恵を受けづらい事業ポートフォリオです。
MS&ADは国内の事業環境が悪化しているダメージを受けています。